『マネジメントの概念整理』 小野 善生先生

滋賀大学 経済学部 教授

1 よく目にするマネジメントという言葉

企業経営に携わる人なら誰でも、もしかすると、企業人に限らずあらゆる社会人なら誰しもマネジメントという言葉を目にしたり、耳にしたりしたことがないという人は、皆無に等しいだろう。だが、このマネジメントという言葉の使われ方を見ると混乱するのではないだろうか。たとえば、トップ・マネジメント、チーム・マネジメント、プロジェクト・マネジメントといった組織の運営に関連したもの、マネジメント講座やマネジメント学部といったマネジメントにまつわる思想や実践方法に関連したもの、あるいは、アンガー・マネジメントやアセット・マネジメントのような何らかの管理やコントロールを意味するものなど、マネジメントという言葉が多岐に渡って使用されていることが分かる。

マネジメントという言葉は複数の意味を有していて、どの意味で用いられているのか曖昧な理解のままコミュニケーションがなされているのである。マネジメントについて何となくわかったつもりでいるので、もし「他者が分かるようにマネジメントについて説明してほしい」と依頼されたら返答に窮するのではないだろうか。そこで、記念すべき第1回は、「マネジメントの父」と言われるドラッカーの見解に基づいてマネジメントの概念整理を行ってみたい。

2 ドラッカーのマネジメントについての考え方

マネジメントに関してドラッカーは、組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関がマネジメントであると定義している。定義のポイントとしては、第1にマネジメントと組織は切っても切れない関係である。第2にマネジメントには、必ず成果が求められる。そして、第3にマネジメントを実践する主体としてマネジャーが存在し、マネジャーたちがしっかり役割を果たさなければならないということである。要するに、ドラッカーが定義するところのマネジメントとは、何らかの成果を得るために組織体を運営していくこと、言い換えると、経営することと解することができる。

マネジメントを概念整理するにあたって注目する論点として、管理的活動と起業家的活動がある。管理的活動は、成果を出すために決められたことをきちんとこなす活動である管理を意味する。一方、起業家的活動は、環境の変化に適応しようと組織変革を実行していくことを意味する。つまり、組織に変化をもたらすというリーダーシップの要素がマネジメントには含まれているとしているのである。

3 マネジメントの概念を整理する

管理的活動と起業家的活動の観点からドラッカーのマネジメントを整理すると、以下のようになる。

ドラッカーの見解に基づいてマネジメントの概念を整理すると、成果を出すために組織体を運営するというマネジメントの定義は、広義のマネジメント(=経営)として位置づけられ、管理的活動は狭義のマネジメント(=管理)、そして、起業家的活動はリーダーシップとして広義のマネジメントを構成する要素となる。

このように概念整理すると、マネジメントは経営という観点から論じられていることもあるし、管理という観点からも論じられていることもある。また、リーダーシップとマネジメントの違いという議論が存在するが、この場合は、組織の維持発展を果たす管理としてのマネジメントと組織が環境適応するために変化をもたらす役割を果たすリーダーシップという観点で論じられているのである。