~デジタルシフトの嵐のなか、マネジメント・システムの見直しが急がれる~
BBT大学院教授・公認会計士・税理士
1. デジタルシフト
コロナ禍のなか、人々の生活や消費の価値観は様変わりした。実はコロナ以前から、既にEC(電子取引)の時代が訪れており、特に流通業界のマネジメントに大きな変革を迫ってもいた。アマゾン・エフェクト(アマゾンの影響)ともいわれる購買行動の変化は劇的であり、そのうえコスト構造では太刀打ちできない状況でもある。この10年ほどの米国では、大手チェーンやショッピングモールの淘汰が信じられないほど加速している。まさに流通業にとっては、いわゆるデジタルシフトへの対応が待ったなしの状況なのだ。そこで、我国の流通業界のマネジメント・システムに焦点をあてて、マネジメント会計の視点からみた問題点とその解決のための方向性について紹介したい。
2. マネジメント・システムの問題
① 企業外部向け:過去の売上や利益などを外部に報告する“決算書”は、法的に作成・開示が強制されていることもあり、どんな経営でも最新のルールに従って作成している。ただ、ルール違反をすると課税などのペナルティが課せられることもあり、最低限の情報を義務的に提供しているのが実態だ。
② 企業内部向け:経営者や幹部のために報告する仕組みである予算管理などの“管理会計”を組込んだ経営は、管理データ作成を法的に強制されず外部に報告する義務がないこともあり、デジタルシフトの嵐のなか、レガシー(過去の遺物)に近い“管理”の仕組みに頼っているのが実態であろう。
③ “管理”がレガシー化している典型的な特徴を挙げてみよう。思い当たる節はないだろうか。
・予算制度はあるが、編成に膨大な時間・経営資源を費やすも、作りっ放しで分析は形式的
・目標管理制度はあるが、通り一遍の運用で、目標達成に結びつかない
・資金繰り(キャッシュフロー計算書)を作成するが、1年後や3年後の見通しを作らず分析なし
・月次決算をするが、形式的な報告だけで、PDCAサイクルが機能しない
3. 本稿で紹介するマネジメント会計
経営戦略の実現には欠かせない“管理会計”なのに、機能していないのはなぜだろうか?
① “管理”との誤訳と誤解
“管理”のための会計だと誤訳したため、“経営”(マネジメント)全般で活用することが弱い。正確にはマネジメント用の会計、すなわち“マネジメント会計”と表現し運用すべきだ。また過去情報との誤解もあり、未来の企業の収益向上のために活用することが弱い。
*以下では、本来の意味に戻って、管理会計ではなくマネジメント会計と表現する。
② マネジメント会計の概要
そこで、次回からマネジメント会計のポイントを紹介することとしたい。マネジメント会計の役割・マネジメント会計の技法・マネジメント会計の使い方などについて触れる予定なので、ご活用いただければ幸いである。