「米国小売業」:消費市場の変化とそれへの対応 ⑭

 世界最大規模で感染症に侵されても、米国小売業は成長産業だった理由は、旅行や外食など規制がかかった分野の消費が一気に小売にシフトしたこと、そして救済金が株や住宅といった資産へ流れて価値が高騰し、中~高所得層の消費が増えたことに加え、ECシフトが起きたわけですが、この大変化にスピーディに対応できたことにあります。

▼モールの営業停止で専門店の業績が悪化したのですが、Nikeやlululemonなどデジタル投資を怠っていなかった企業はECシフトにも対応できて大きな傷を負わずに済んでいます。業績悪化の要因はパンデミックだけが原因ではないようです。

▼Walmartがデジタル面の変革に本格的に取組んだのは11年のKosmix社の買収と、この企業を「@WalmartLabs」と呼ぶ研究開発組織へと転換したときからであるから10年は経っています。それから5年をかけ全システムの土台づくりを終え、ECの本格強化へ舵を切り、この時点で過去最大の買収額30億ドルをかけて買収したのがJet.comです。このJet.comのサイトを20年に停止、創業者で買収後はEC事業責任者となりEC事業成長をリードして来たマーク・ロリーは21年1月に退任しました。巨額の投資がムダになったように見えますが、ダグ・マクミロン(CEO)は「ジェットの買収は十分な価値があった。買収後にビジネスの軌道が変わった。マーク・ロリーや彼のチームという多くの人材や技術を得た」とコメントしています。軌道が変わったという点が重要なことなのです。

▼ラストマイルの課題は、コスト削減と宅配時間の短縮になります。Amazonは、小型~中型のFCを増やしていますが、Walmartはリアルな4000店舗の活用を急いでいます。配送センターと大型FCに、店舗を活用したMFCを加え、これらを有機的に統合し自動化するシステムを開発し活用し始めたのです。これで各店舗のEC注文処理数の上限をクリアできるとしています。スーパーセンター成長時のDC展開よりも大きな変化で、サプライチェーンからラストマイルへの物流の大変革も大詰めを迎えはじめているようです。

 (2021・11・14)