『新型コロナを経たスーパーマーケットの変化と未来』      竹下浩一郎先生

株式会社リテール総合研究所 代表取締役 『リテールガイド』編集長 

買物の形を変えるもう1つの要素、ネットチャネルとの連動

人手不足を背景に、全体の2割~3割ともいわれるレジの人時をいかに節約するかは、スーパーマーケット(SM)にとって大きな課題となっていた。セルフレジ、セミセルフレジ、さらに端末付きカートやスマホによるスキャンといったレジの店舗側の負担を軽減する方式の導入が進んでいる中、新型コロナウイルスによる非接触に対する支持の高まりが、決済の形を変えることに大きく作用していることは前回に触れたとおりである。レジは前述のとおり、人時がかかる要素であると同時に、実は店舗のスペースをそれなりの規模で占める要素でもある。決済の形が変わることで、必要とするスペースが少なくなることは、店づくりにおいても大きな影響がある。特に限られたスペースで店舗を展開する必要がある都市部では売場を大きく確保できることにつながる。これと同様に、売場の確保に大きな影響を与えそうであるのが、インターネットによる買物、つまりネットスーパーである。

新型コロナウイルスの影響でネットチャネルが急激に伸長

現在では、買物の多くを占める存在になっているネットによる買物だが、SMがメイン商材として取り扱う食品については、鮮度が重要であったり、口に入れるものであることから自身で選びたいといった特殊な事情もあるためか、なかなか移行が進まなかった。同様に、SM企業側のビジネスとしての側面でも、配送面、さらには根本的に商材としての取り扱いの難しさなどもあって利益を出すことが困難な状態が続いていた。しかし、それが大きく変わったのは、やはり新型コロナウイルスがきっかけであるといえる。外出の自粛が求められ、さらに買物にでかけること自体への抵抗もあってか、ネットスーパーに対する需要が急激に伸びたのである。経済産業省が調査した2020年の対消費者向けEC(電子商取引)市場は19.3兆円(前年19.4兆円、前年比0.43%減)とほぼ横ばいになった。しかし、これは主に旅行サービスの縮小を背景としたサービス系分野の大幅な減少を受けたもので、新型コロナウイルスの感染症拡大の対策として、外出自粛の呼びかけ、およびECの利用が推奨された結果、物販系分野の市場規模は大幅に拡大した。20年の物販系分野の対消費者向けECの市場規模は12兆2333億円。19年の10兆515億円から21.71%の大幅な伸びを示した。EC化率も8.08%(前年比1.32ポイント増)と増加傾向だ。前述のとおり、SMが主に取り扱う「食品、飲料、酒類」などは19年段階ではEC化率が2.89%とかなり低い水準であったが、19年の1兆8233億円から20年は2兆2086億円と21.13%の大幅な伸びを示し、EC化率も3.31%にまで高まった。

売場の配分の意味づけが変わる可能性がある

需要が高まっていることは利益を出すことに近づく、もしくは実現することにつながるが、それでもさまざまな課題が残る。例えば、配送を前提としているため、配送のキャパシティを超える需要の高まりに対応しきれないといった問題が出てくるわけだ。その意味では単に一連の業務の効率化だけでなく、配送についてどうするか、あるいは会費をどうするかといったビジネスの設計をどう考えるかは、ネットスーパーを考える上で非常に大きな要素となる。この辺りが冒頭に触れた売場の確保に大きな影響を及ぼすことにつながる。店から配送するのであればネットスーパー分の在庫も持つ必要が出てくるであろうし、配送センターのようなものを設けるのであれば、その分の在庫は持たなくても良くなるが、それではその配送センターをどのような規模で、どこに設置するかといった問題が出てくる。前回、「スキャン&ゴー」について紹介したユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)は、この点についても戦略的な視点を明らかにしている注目企業だ。同社に属する企業にはそれまでネットスーパーを手がけていた企業もあるが、今後、その既存のものとは異なる枠組みのネットスーパーとなる「オンラインデリバリー」に集約していくとしている。

(写真↑)U.S.M.H)は、既存のものとは異なる枠組みのネットスーパーとして「オンラインデリバリー」をグループ内で推進している(マルエツのオンラインデリバリーのピックアップルーム)

U.S.M.Hの1社、マックスバリュ関東でも「オンラインデリバリー」を推進している

その上で、売場をどうしていくかを極めて柔軟に考える。U.S.M.Hの1社でデジタル技術に基づいた新たな店づくりを積極的に進めるカスミの山本慎一郎社長は、これからの売場づくりについて次のように語る。「MFC(マイクロフルフィルメントセンター、店内などに併設される小型センター)などを考えると、これまでの店舗面積、売場面積、売場の配分の意味づけが変わるかもしれないとは思っている。たとえばドライグロサリーの売場がそこになくて裏の倉庫にあるとか、要するに横にMFCを造っておいて、(スキャン&ゴーで)スキャンしながら買って行って、出口に出てきたらパッキングして出てくるといった形も考えられるかもしれない。いままでの常識で、とにかく広い店を造ってそこにたくさん商品を並べないとどうにもならないという時代は変わるのではないか」さらに、そこにオンラインデリバリーの要素が加わると、売場の広さ、形はさらに大きく変わってことになる。このように考えてくると、リアル店舗を持つということは、在庫の拠点として生かすことができるという点で、SM企業にとっては大きなアドバンテージになると考えることができる。来店が前提のセルフサービスでの買物からネット注文を受けての配送まで、さまざまな方法でお客に商品を届けることが可能になるからだ。まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)によってSMのビジネスが、来店とセルフサービスを前提としたリアル店舗から、大きく広がりつつあると考えることができる。さらにその店、売場の形も、これまでと大きく変わっていくことが予想されるというわけだ。

ネットスーパーは配送するだけではなく、取りに来てもらう選択肢も

ネットスーパーの大きな特徴である配送についても、そのキャパシティをカバーする方法の模索、さらにお客にとってもより便利な方法の追求といった動きも出て来ている。そもそも配送自体、企業側の負担が大きいことは確かだが、一方で受け取る側のお客にとっても「家に滞在しなければならない」、あるいは「家まで配送してもらうことに抵抗がある」といった負担のような要素があり得る。その点、「店まで取りに来る」といった方法を選択肢に加えることは、企業側、お客側双方にとってメリットになる可能性があるといえる。実際、欧米で広がりを見せるBOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)と呼ばれる店舗受け取りが日本でも注目され、実際に広がりを見せていることには注目したい。たとえば、イオンリテールは店内のサービスカウンター、店内外のロッカー、さらにドライブスルーによる受け取りまで、「いかに選択肢を増やすか」という観点で整備を進めている。お客にとっては、来店して買物をしても良いし、ネットスーパーを利用しても良い。さらにネットスーパーを利用した際には配送してもらっても良いし、店に取りに行っても良い。こうしてみてくると、選択肢を増やしながら店や売場の形をそれに適した形に変えていくという未来の姿が見えてくる。

イオンリテールでは、ネットスーパーの商品を車に乗車したまま受け取れるドライブピックアップの整備を進めている

イオンリテールでは店内にも受け取りカウンターを設ける。狙いは選択肢の拡大にある