『リーダーシップは才能で決まるのか?』 小野 善生先生

滋賀大学 経済学部 教授

1 何か持っている人しかリーダーになれないのか

業績のV字回復を成し遂げる経営者、次々と新規事業を立ち上げる起業家、常勝チームを率いる監督などリーダーシップを発揮していると思しき人物について、「あの人たちは、凡人には無い特別な才能を持っている」と考えている人が多いのではないだろうか。そういった人たちは、人々を魅了ように立ち居振る舞い、心を動かす言葉を用いて、独特の雰囲気を醸し出していて、「何か違う」と思わずにはいられないところがある。それゆえに、リーダーシップは何らかの資質を有した人物のみが発揮できると考えている人も案外多いかもしれない。

リーダーシップの学術的研究が本格的に始まった20世紀初頭においても、当時の多くの研究者は「リーダーシップは資質で決まる」と考えていた。リーダーシップを発揮できる人物の性格や身体的特徴といった本人の生まれ持った資質を特定し、リーダーシップが発揮できる人物の資質を明らかにしようとしたのである。このようなリーダーシップをリーダーの資質に求める研究は、資質アプローチと呼ばれている。しかしながら、資質アプローチの諸研究を渉猟した心理学者のスタッジルは、リーダーシップと資質は一定の関係性があるが、リーダーシップの発揮にとって決定的に重要な資質を特定するには至らなかったと結論づけた。そして、資質アプローチは、その後に台頭したリーダーシップをリーダーの行動特性に求める行動アプローチに主役の座を奪われた。

2 尽きることのないリーダーシップと資質への関心

リーダーシップと資質に関する研究は、メジャーな存在からマイナーな存在になったもののリーダーシップと資質の関係に関する研究者の関心は尽きない。以下の表は、資質アプローチの代表的な研究である。

出典:Northouse, P.G.(2010). Leadership: Theory and Practice, 5th edition, SAGE Publication, p19.

この表を見ると、資質アプローチの研究が継続的に行われていることがまず分かる。さらに見ていくと、リストアップされている資質について「知性」や「外向的」などいくつか共通するものが見受けられるが、数も違えば内容も程度の差こそあれ異なっている。また、過去の研究には、「男らしさ」や「支配的」など物議を醸す可能性がある資質も含まれている。

これらの中でも注目すべきは、2000年代の研究においてリストアップされている資質である。この中には、「外向的」や「開放的」のようなビックファイブと呼ばれる性格基本次元で議論されている資質、あるいは、感情を扱う個人の能力として注目されている「感情知性」も資質としてリストアップされている。つまり、性格や知性に関する昨今の研究成果がリーダーシップの資質に反映されているということである。仮にこのような傾向が続くと資質にリストアップされる項目が今後も増えていくといったことも予想され、最終結論はまだ先になりそうである。

3 リーダーシップと資質の関係をどのように考えるか

リーダーシップと資質の関係に関する議論は尽きないが、今のところ結論には至っていないのが現状である。リーダーシップと資質の関係は興味深いものがあるが、リーダーシップはリーダーの存在のみで語ることはできない。そこでは、リーダーシップを受けいれるフォロワーの存在が必要不可欠である。どのようなリーダーの言動にフォロワーがリーダーシップを認めるのかという視点なくしてリーダーシップを語ることはできないのではないだろうか。