(一社)全国スーパーマーケット協会 主任研究員

プラスチックごみのうちレジ袋は2%程度
全国一斉にプラスチック製買物袋の有償化が義務化された結果、20年末でスーパーにおけるレジ袋辞退率は57%から80%へ、コンビニでも23%から75%に上昇、ドラッグストアではレジ袋の使用量が84%減少(いずれも環境省調べ)するなどレジ袋の使用抑制に対して大きな成果あげている。
一方で日本から毎年排出される廃プラスチックのうちレジ袋が占める割合はわずか2%程度であり、プラスチックごみ削減という目標に対する有効性を疑問視する論調も根強く残る。
レジ袋有償化義務化の目的のひとつに、海洋プラスチックごみによる環境破壊の改善が掲げられたことで、そのような印象を持つ消費者がいることはやむを得ない。様々なプラスチックごみがあるなかで、なぜレジ袋だけが有償化されるのか疑問に持つのは当然である。しかし、実際にはレジ袋有償化は、国内の廃棄物抑制が起源であり、10年以上の試行錯誤を繰り返しようやく実現した事業者間のサービス格差の是正措置である点は強調しておきたい。
レジ袋有償化は国内のごみ排出量削減が起源
日本は、90年頃まで「大量生産・大量消費・大量廃棄」の成長メカニズムであったが、一方で、廃棄物の増大という大きな課題に直面しており、埋め立て最終処分場が不足する事態が懸念される状況にあった。
その対策として、1995年「容器包装リサイクル法」が制定され、使えるものはごみとして出さず、再利用して使うことが掲げられた。自治体の家庭ごみ分別回収、スーパーマーケットでは、食品トレーや牛乳パックなど包装容器の店頭回収の実施が始まったのはこの頃である。
その後、リサイクルだけでは十分な成果が得らないことがわかると、2006年「容器包装リサイクル法」が改正され、容器包装の使用量を抑制する動きに移行する。この時期から、使い捨て文化の象徴とされていたレジ袋の使用を抑制する動きがはじまり、その切り札として有償化が議論されるようになった。
レジ袋税を阻んだサービス格差の壁
2007年東京都杉並区で地方税法に定める法定外目的税として店頭でのレジ袋の譲渡に5円を課税するいわゆる「レジ袋税(すぎなみ環境目的税条例)」が制定され話題となった。しかし、小売事業者側からの反対が根強く、実施されることはなく廃止された。消費者からみれば有償化と課税に違いはないが、事業者にとっては全く異なる施策である。レジ袋は無償配布しているが、その費用は事業者が負担している。有償化であれば費用を回収できるが、課税ではそれができない。また新たな税が導入されれば、帳簿の記載や保管、税金の納入など多くの事務作業が発生する。それ以上に懸念したのは、有償化が一律に実施されない場合、顧客が有償化していない他店(他地域)に流出してしまう懸念、つまりサービス格差による売上への影響である。
義務化は対応を事業者にゆだねる矛盾の解消
そのため、例えばスーパーマーケットでのレジ袋の利用抑制策は、辞退者に特典を付与する仕組みやマイバッグの普及など自発的辞退を啓蒙する取り組みと有償化に踏み切る事業者に分かれた。本音では有償化を望む事業者が多いのは確かだが、周辺店舗の実施状況や消費者の環境への意識を考慮し、あくまで個別の判断で進めていかざるを得なかった。今回の措置により、すべての小売業で一律に有償化が実施され、ようやく事業者間でのサービス格差が解消されることになった。「プラスチック資源循環法」が成立し、プラスチック製品の製造から廃棄、リサイクルに至るまで対策が定められた。今後プラスチック製の使い捨てスプーンやフォークについても、有償化や辞退した場合にポイントを付与される予定であるが、事業者の判断に委ねられるのではなく、一律の実施となることを期待したい。
(図表1)義務化前のスーパーマーケットにおけるレジ袋配布状況

(図表2)義務化後のスーパーマーケットにおけるレジ袋配布状況

(出典)スーパーマーケット年次統計調査
サービス無償提供は過剰消費の要因に
このような有償化の流れは、消費者の環境問題への意識の高まりにより、反発を招きにくい社会環境ができていることが後押ししているが、サービスが無償で提供される日本の悪しき慣習について、考え直す絶好の機会が訪れたともいえる。
レジ袋に限らずサービスの無償提供は、消費者にとってありがたいことには違いないが、その結果、事業者からの過剰なサービス提供を誘発する構造がこれまで続いてきた。サービスに相応の対価を支払うことが当たり前の社会をつくりあげることは、今後小売業が避けて通れない大きな課題である。今回の有償化の流れを環境問題にとどめることなく、適正なサービス提供の在り方を業界全体で取り組む大きな第一歩になることが期待される。