~デジタルシフトの嵐のなか、マネジメント・システムの見直しが急がれる~
BBT大学院教授・公認会計士・税理士
4. 経営の仕組みが抱える本質的弱点
① 経営の仕組みは、外部からチェックされることがないため、経営トップの経営レベルに応じて経営の仕組みが決まる関係にある。そのため、経営目標を達成するための経営の仕組み(「マネジメント・システム」)は、各社各様に設計されているし、その運用も各社各様である。
② では、各社のマネジメント・システムは、実際にはどのように設計されているのだろうか、またどのように運用されているのだろうか。さらにデジタルシフトとコロナ禍が押し寄せ人々の生活や消費の価値観が様変わりしつつ現在、マネジメント・システムの見直しやアップグレードは適切に実行されているのだろうか。
③ 実は、実務的にマネジメント・システムを深く理解してその全般に通じている人や組織は、各社の内部にはほとんど存在しないのが実態である。経営目標を達成することがマネジメントの目的なのに、そのシステムの設計と見直しを任せるプロが、社内にほとんどいないのだ。かつては効果的だったのに、いつの間にか過去の遺産ともいうような経営目標達成の仕組み=マネジメント・システムに頼っている経営が実に多いのである。
④ 外部の専門家を利用している、と安心している会社もままある。しかし外部の専門家は人や組織や税や金融や法律などそれぞれの分野の専門家であっても、経営目標達成のためのマネジメント・システムに深く通じているわけではないのである。
5. 主なマネジメント不全の症状
こうした結果、現状のマネジメント・システムが経営目標を達成するために合理的で妥当な仕組みであるか、省みられないまま忙しさに紛れて日々が過ぎている経営が、多発しているのが最近の特徴なのだ。典型的な症状を見てみよう。
① 経営目標達成に向けて、税務申告用の月次決算書でしか議論しない
多くの中小会社に見られる症状で、目標がなく対前期比などで議論。外部報告用の月次決算書のデータを、現場の業務に翻訳(数量・時間・人・作業など)できていないため、現場の業務と直接関係ない抽象的な議論に終始しがち。マネジメント・システムの設計と運用の見直しが経営目標を達成するためには欠かせない。
② 過去のデータの報告・分析だけに終始し形式的にしか議論しない
目標が設定されていても、過去・現状の分析だけという症状。過去・現状の情報から問題・課題を発見する能力、発見した問題を解決する方法を発見し、目標達成に向けて今後の具体的な作業を変更することがマネジメントの肝である。マネジメント・システムの運用の見直しが経営目標を達成するために欠かせない。
③ 中計や全社的利益目標と店舗目標の関係が明確でなく、月次・週次の検討会も形式的
中期計画などと各部門目標との調整・ブレークダウンが数字によって合理的になされていず、また週次・月次の検討会も目標達成のために変化すべき業務内容などが明確に示されないことが背景にある。また目標管理制度が設定されていても、責任範囲や評価方法があいまいなため、動機づけに結びついていないことも。マネジメント・システムが全社目標を達成するための目標管理制度になっているか、見直すことが欠かせない。