株式会社リテール総合研究所 代表取締役 『リテールガイド』編集長

2030年のスーパーマーケットの形とは
これまで、新型コロナウイルスの存在がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めた状況について触れてきた。ニューノーマルの中、それまでどちらかというとゆるやかであったDXが一気に進んだことは、スーパーマーケット(SM)の形がより早いペースで変わっていくことにつながる。これからおよそ8年後となる2030年のSMの形はどのようになっているのか。現在登場している新しい動きと共に考察してみたい。
コロナが次第に落ち着くからこそ、戦略的なDXが進む
まもなく2022年がスタートする。DXは22年も継続的に、経営上の大きな鍵となると思われる。むしろ、コロナ禍の中でスピード感を持って対応してきたものと異なり、じっくりと取り組む戦略的なものとなると思われる。新型コロナウイルスが落ち着きを見せる中、一時的に見えづらくなっていたコロナ前の構造的な課題、つまり人口減少による食品市場の縮小やオーバーストアによる競争激化といった課題が次第に再度、浮かび上がってくる。市場の縮小や競争激化の中で生き残るための差別化要素となるのが生産性の向上であるといえ、DXはそれに対する有効な対策ともなり得るからだ。そもそも、小売業に限らず日本のサービス産業自体が生産性の低さを指摘されてきた。
店の形は、生産性を高めるための直接的な対策となり得る。その際、現在の店の形で生産性を高めることでも一定の効果が見込めるが、第1回に「DXが業務のデジタルへの置き換えではなく『再構築』」と指摘したように、「そもそもこの過程は必要なのか」「店側が行うより、お客に行ってもらっても良いのではないか」といった考え方で、店の形自体を再構築することを考え、そこにDXを活用するという発想が重要になる。
直近の動きでは、コロナ禍で急激に需要が高まったネットスーパーの進化もあるし、リアル店舗においても非接触で精算ができる、あるいはレジ自体が必要なくなるといった取り組みによって、これまで当たり前のように「来店」し、「売場で商品を取り」「レジで精算」し、「持って帰る」という買物行動の1つ1つが変わってきている。例えば、現状でも、「そもそもネットで全て済ませて来店しない」「来店はするものの店内に入らずにネットで注文した商品を店頭で受け取る」「ネットで注文した商品を受け取りに来たついでにその他の商品を買う」「来店して売場で商品を集めるものの自身のスマホなどでスキャンと精算を行ってレジを通らない」といったように、買物の形は多様性を増している。
市場縮小の中、客数増のために「お客の選択肢を広げる」
現在のところ、これらの買物行動のそれぞれについて、「お客の選択肢を広げる」という考えで、さまざまなニーズに対応する姿勢で臨む企業が多い。
人口減やオーバーストアといった中では「シェアの向上」こそ生き残りの条件であり、中でも重要な要素は「客数の増加」になることから、その背景には、ある程度効率が悪くても、さまざまな対応によって客数を確保するという意図があるとみられる。1人のお客には、ときと場合によってさまざまな買物ニーズが生まれる。時間があれば来店して選びながら生鮮素材を買い、調理をしようと思うかもしれないし、時間がなければミールキットや惣菜を買う、あるいは買物に行く時間がなければネットスーパーで素材を買って調理をする、もっと時間がなければネットで惣菜を注文する、もしくは店に行ってその場で食事をする、といったようにその動機が多様だ。DXとかかわりの深い精算についても、同じ人が多様な方法を使う可能性も十分に考えられる。
以前であれば、こうした動機ごとに店を選んでいたかもしれないが、市場縮小のこれからは、その中でのシェアをいかに高めるかが重要になってくることから、それらに対応しようという動きになるわけだ。もちろん、全ての方法を取り入れれば良いということにはならない。そこは投資対効果、生産性とのバランスを見る必要が出てくる。いまはまさに試行錯誤の段階にあるといえ、今後、次第にある程度の集約が起こってくると思われる。第4回で「スタンダード」の問題に触れたが、ある程度の選択肢は残しつつも、最終的にはスタンダードになる方式が次第に明らかになってくるとみられる。
冒頭で触れた、いまから約8年後、2030年の店の姿をあえて予測すると、やはりレジについては相当の割合で簡素化されていると考えられる。ただし、スマホによるスキャンは利用率の面で課題を抱える他、スキャン機能付きカート、あるいは商品を取ってゲートを出るタイプも相応の投資を必要とすることから、しばらくの間はセルフレジが主力になっていくとみられる。セルフレジなどについては、スキャン忘れなどロスの対策が求められるが、それもカメラや重量計、さらにはAI(人工知能)などによって対策が進むはずだ。そのため、売場づくりについても、これまでレジに割いていたスペース、あるいは人時を減らし、有効活用ができていくことだろう。また、ネットとリアル店舗を併用する中で、店舗に併設した形の小型物流センターであるマイクロフルフィルメントセンター、あるいはダークストアが増加し、高まるネットスーパーの需要に応えつつ、店舗の商品とのアッセンブルなども模索されていくだろう。
DXが進むことで、お客と長期的な関係を持てるようになる
同様にDX文脈の中で、お客の買物のデータ分析を通じてお客とより長期的な関係性を持つ動きも活発化しているはずだ。データ分析は、これまで長年行われてきたことではあるが、各社が独自のアプリを開発し、お客とのつながりを強めようとしている昨今、いよいよその真価が発揮されるときが来ているように感じられる。1回の買物だけではなく、より長期的な関係を買物、あるいは情報提供などを含めて持ちながら、1人のお客に関するライフタイムバリュー(LTV、顧客生涯価値)を高める方向性が強まっているはずだ。その中では、店側からの提案性をより高めたサブスクリプションのサービスにつながるものも出てくるだろう。店側にとってはプッシュ型のお薦め商品を提案できることで生産性が高まる他、お客側にとっても、「むしろ提案してもらった方が楽」といった要素もあるため、双方にメリットが出るサービスになる可能性がある。
現代の消費の局面ではサブスクリプションサービスが増加しているが、SMの分野で登場する可能性も十分にある。