『二次元のリーダーシップ行動特性』    小野善生先生

滋賀大学 経済学部 教授 

1 資質ではなく行動特性にリーダーシップを求める

リーダーシップと資質の関係については、リーダーシップ論の代表的な研究者であった心理学者のスタッジルが関連する諸研究を渉猟した結果、リーダーシップと資質については一定の関係があるが、資質だけではリーダーシップを説明することができないと結論づけた。資質アプローチに変わって台頭したリーダーシップ研究のアプローチが、リーダーの行動特性にリーダーシップを求める行動アプローチと呼ばれる考え方である。行動アプローチの諸研究によって導き出された二次元のリーダーシップ行動特性は、その後に展開される様々なリーダーシップ研究アプローチに多大な影響を与えている。

2 課題関連と人間関係関連のリーダーシップ行動特性

行動アプローチを代表する研究の1つのであるオハイオ州立大学の研究者たちが実施したオハイオ研究では、課題遂行に関連したリーダーシップ行動を意味する「構造づくり」とフォロワーとの良好な人間関係の維持と構築に関連したリーダーシップ行動である「配慮」という2次元のリーダーシップ行動特性が導き出された。日本を代表するリーダーシップ研究である三隅二不二元九州大学・大阪大学教授が発表したPM理論においても課題関連のリーダーシップ行動であるP(performance)行動と人間関係関連のリーダーシップ行動であるM(maintenance)行動からなる二次元のリーダーシップ行動が導き出された。いずれの研究においても、課題関連と人間関係関連の両次元のリーダーシップ行動特性を満たすことがリーダーシップの発揮につながるという結論でも共通している。

これらの調査研究は1950年代から60年代にかけて実施されたもので、ほぼ同じ時期にアメリカと日本という文化的に異なった国で同じような結論が導き出されたことは大変興味深い。ちなみに、二次元のリーダーシップ行動特性は、ハーバード大学やミシガン大学で実施された研究においても類似する結論が見いだされている。

3 強固な二次元のリーダーシップ行動特性

行動アプローチの諸研究から導き出された二次元のリーダーシップ行動特性は、その後のリーダーシップ研究に多大な影響をもたらした。金井壽宏 神戸大学名誉教授・立命館大学教授によると、課題関連と人間関係関連からなる二次元のリーダーシップ行動特性はその後にリーダーシップ研究のメインストリームを形成する変革型リーダーシップ論の主要研究においても影響を及ぼしており、これらのリーダーシップ行動特性はロバスト(反証することが難しい強固な)理論であるとしている。

表1 二次元のリーダーシップ行動特性

出典:金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日経文庫,245頁(一部著者改訂)。

4 リーダーシップ行動特性を理解して実践する

二次元のリーダーシップ行動特性がリーダーシップの発揮につながっていくためには、その行動特性がリーダーシップの発揮としてフォロワーに認識されないことには成立しない。フォロワーがそれらの行動を通じてリーダーシップを認識するためには、そこに至るまでにリーダーとフォロワーがいかなる相互作用が蓄積されてきたのかが影響を及ぼす。つまり、行動特性を満たすだけでは不十分であり、普段からのフォロワーとの付き合いの積み重ねが重要なのである。