『経営戦略を実現するためのマネジメント会計とは』 櫻庭周平先生

~デジタルシフトの嵐のなか、マネジメント・システムの見直しが急がれる~

 BBT大学院教授・公認会計士・税理士

6. 社会的な視点を取り入れた経営理念

多くの企業は、経営理念としてミッションやビジョンなどを掲げてきた。だが、流行などにとらわれず、環境や社会によいビジネスを行っている企業をサポートする若い消費者が増えてきた。こうした傾向はBtoBの分野ではさらに厳しく、サプライヤーリストから除外されるケースもあるほどだ。

こうした流れを受けて、いまビジネスの世界では「そのビジネスが存在する本質的な意義は何か?」と、経営の存在意義を問う動きが顕著になっている。世界最大の機関投資家ブラックロックのCEOは、投資先企業に対して「企業はパーパス主導でなければ長期的な成長を持続できない」と繰り返し訴えている。2019年の年次書簡でも、「パーパスは、単なるキャッチコピーやマーケティングのキャンペーンではなく、その企業がなぜ存在するのか・・といったことを意味する」と訴えている。

こうした背景のもと、経営理念がミッションやビジョンといった外発的なものから、パーパスやドリームといった内発的なものにシフトしてきている。アップルやウォルマートなど米国主要企業が参加するビジネスラウンドテーブルも「企業のパーパスに関する声明」を2019年に発表したほどだ。

わが国でもパーパス経営を掲げる経営は増え、セブン銀行やビックカメラ・三菱UFJ・ソニー・NEC・富士通・SOMPOホールディングス・パルコなど業種を問わず大きな流れになってきている。

 7. 経営理念を反映した経営指標

① コロナ禍など、先行きが不透明で将来の予測が困難な“VUCA”とも言われる時代に経営は身を置いているが、中長期の見通しについては二極化の傾向を見せている。

人々の生活や消費の価値観がさま変わりしたなどとして、中長期の見通しを控える経営が目立つが、一方で、事業領域の見直しや財務体質やコスト見直し・経営効率の向上など事業基盤を改革する格好の機会だと判断して、経営理念を反映した経営目標・経営指標を策定する経営も増えている。

② 経営理念や経営目標を、単なるスローガンのように扱う経営が、まだ目に付く。米国経営者団体BRが2年前に掲げたステークホルダー重視の約束を、多くの企業が反故にしたとも指摘されている。

そうしたなか、経営目標を反映した経営指標を作成する流れが、上場企業を先頭に広がっている。経産省のプロジェクト(伊藤レポート)が示した経営指標のひとつ、株主資本利益率(ROE)を向上させようという動きだ。諸外国に比べ異常に低い経営指標であるROEを向上するために、全社レベルのROEを現場レベルの業務改善指標KPIまでブレークダウンして効果を発揮しようというものだ。

オムロンでは投下資本利益率ROICを経営指標として用い、“ROIC経営”を社内外に宣言している。全社レベルの「ROICを各部門のKPIに分解して落とし込むことで・・・現場レベルで全社一丸となりROICを向上させているのが、オムロンの強みです」としている。

オムロンの経営指標と現場のKPI例

                                オムロン株式会社「統合レポート2021」29頁