百貨店業界の動向

16日の日経新聞に、百貨店の海外店舗の閉鎖が止まらないとの記事があった。2021年末の店舗数は34店でピーク時の6割減とのことだ。欧州からは全社が撤退、経済成長を期待して出店増を図ったアジア地区でも閉店が相次いでいる。EC(電子商取引)が広がり、日本製品が手に入れやすくなったこと、現地の流通企業が成長し、競争が激しくなったことで、地元の消費者を囲い込めなくなったことが原因のようだ。

▼国内店舗の整理も続いている。昨年は、西武・そごう川口店、三越恵比寿店、三田阪急、松坂屋豊田店などの閉店があり、今後についても、津田沼パルコ、新所沢パルコ閉店、小田急百貨店が新宿店本館の営業を22年9月末、東急百貨店も東急本店(渋谷)を23年1月に閉店すると公表している。小田急百貨店、東急百貨店後は、SC(ショッピングセンター)型の複合商業ビルに転換される見込みだ。

▼百貨店はこれまでEC売上高の拡大を目標に掲げてきたが、結果は芳しくなかったようだ。アパレルメーカーは自社サイトでECを手がけているし、他にも通販サイトは多数ある。消化仕入れ方式で展開してきた百貨店に、大手EC業者に太刀打ちできる力はない。やはり強みは、1等地にあるリアル店舗を生かすしかない。コロナ禍も2年目、苦境の中で百貨店は徐々に打開策を講じ始めている。それがOMO(Online Merges with Offline)、すなわちデジタルとリアル店舗の融合であり、顧客体験の最大化を目指しオンラインとオフラインの垣根を超えて購買意欲を創り出そうとするマーケティングの考え方だ。代表は丸井であるが、「デジタル・ネイティブ・ストア戦略」を掲げ、19年から店頭で大胆に「売らない売場作り」を進めてきている。丸井の売場で実物を手に取り、実体験してもらい、消費者は帰宅後に検討し、ECで購入するといったビジネスモデルになる。

一方、実店舗では脱同質化へ向けた取り組みが始まっている。阪神梅田本店は食品売場や飲食店を拡充し、食品関連売上高6割前後という異例の水準になるとのこと。8~9割が自社売場である百貨店にあって、そごう・西武所沢店は自社売場面積を3割以下にして成功している。実店舗でのこれらの動きは、自社売場での衣料品の低迷への対応と言えるのだろう。集客のために水族館の導入(22年春開業、松坂屋静岡店)や屋上に日帰りキャンプ施設を設置する(伊勢丹浦和店)などユニークな試みもある。

▼初売りは盛況の様子だったが、オミクロン株の感染者の急激な拡大がどう影響するかだ。コロナ禍を通じ消費者の生活習慣、消費の行動様式が変わった以上、従来通りの施策を続けていたのでは売上高が回復することは期待できない。同質化を脱した個性ある売場作りが展開され続くことになると考えられる。今年は黒字復帰を狙う百貨店業界各社にとって極めて重要な年になるはずだ。

(2022・01・17)