法政大学名誉教授
最新の世界小売業売上高ランキング(Global Powers of Retailing 2021)をみると、アマゾン・ドット・コムがコストコを追い越し、ウォルマートについで第2位に躍進した。EC(電子商取引)市場をみても、米国内のシュアは40%弱を維持し、日本、英国、ドイツ等の主要先進国でマーケットリーダーの地位を不動のものとしている。
こうしたアマゾンの強さは、デジタル・プラットフォーム・ビジネスを支える強固なエコシステム(生態系)にある(下図参照)。具体的には、マーケットプレイス(第3者チャネル)、プライム会員サービス、FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)の3本柱が相互に支え合う戦略的相互補完関係が作用しているのだ。
売り手と買い手を仲介する場であるプラットフォームでは、交換される商品・サービスの価値(価格)は一定でも、売り手が増えると、品揃えが豊富になり、買い手も増える。逆に、買い手が増えると、売り上げ増が期待できるので、売り手も増えるという市場のネットワーク(外部性)効果が作用する。したがって、どちらかを先に増やすかというチキン・アンド・エッグ問題の解決が最初の経営課題になる。
アマゾンは最初に、徹底的に買い手(消費者)を増やし、囲い込むことに成功した。世界一の本のタイトル数、どこよりも安い価格と迅速な配送、詳細な商品情報と消費者参加型のブックレビュー、そしてワンクリックによるストレスフリーな注文方法で品揃え・価格・利便性を通して最高の購買経験を提供した。
顧客の囲い込みに絶大な威力を発揮したのがサブスクリプション(定額課金)による無料の翌日配送や映画・ビデオ等の見放題のプライム会員サービスである。すでに世界でプライム会員数は1億人を超えた。それに対して、売り手サイドの品揃えの無制限な拡大に貢献したのが外部の出品者によるマーケットプレイスの開設だった。この20年間で小売販売額の約60%はマーケットプレイスが占めるようになった。
プライム会員サービスとマーケットプレイスを連結し相乗効果を高めたのが出品者の在庫保管から注文処理、配送まで請け負うFBAである。出品者はフルフィルメント業務を委託できるので、商品開発や生産の専念でき、アマゾンは業務受託料を懐にすることができるウイン・ウイン関係が生じた。また消費者にとってもプライム商品が増えて、最短の配送サービスを受ける機会が広がった。
アマゾンのエコシステムは、このようにビジネスモデルの3要素ががっちり噛み合い、自社チャネルに対する第3者チャネル、普通の顧客に対するプライム会員、大手物流企業に対する独立経営のドライバー等、「事業補完者」と呼ばれる新しいプレイヤーが組み込まれている点が強みとなっている。収益力は当初のオンライン書店では売買差益で、先行投資負担が重く、赤字経営が長く続いたが、プライム会員費やFBAの受託手数料が入ってくるようになり、大幅に改善した。
しかし、このサクセスストーリーはエコシステムの下部構造内のメカニズムにとどまっている。専門家にとってはほぼ既知の事柄である(下図参照)。問題は、この強力なエコシステムの上部構造にある実店舗小売業への参入の成否を、どうみるかである。次回、その点を検討しよう。

『コマースの興亡史』日本経済新聞出版、261頁