『新型コロナを経たスーパーマーケットの変化と未来』  竹下浩一郎先生

株式会社リテール総合研究所 代表取締役 『リテールガイド』編集長 

ドラッグストアなど他業態が競合として本格的に浮上

小型であることやフランチャイズチェーンという構造による出店のしやすさや構造もあって、日本の小売業の店舗売上高ではトップレベルの存在となったコンビニは、その売上げの存在感の大きさから、古くからスーパーマーケット(SM)にとっての大きな競合であるとみなされてきた。

しかし、2020年に発生した新型コロナウイルスによるパンデミック下では、買物を控えることによるワンストップショッピングの店への支持の急拡大によって、絶好調のSMとは対照的に苦戦を強いられた。

そうした中、改めて存在感を増しているのが、ドラッグストア(Dg.S)である。Dg.Sは、もともと非食品主体の業態であるが、人口減少時代にあって客数の増加、あるいは来店頻度の向上を目指して食品の取り扱いを増やしてきている。

代表的な企業にコスモス薬品がある。地盤の九州から東進を続けているDg.S企業で店舗数は1100店を優に超え、年商も7200億円という巨大チェーンだが、実に売上高の57.7%が食品である(2022年度上期)。Dg.Sとはいえ、ワンストップショッピングの機能を高めた同社のフォーマットはSMにとっても大いに脅威である。

コスモス薬品は東進を続け、関東には当初、都市型の小型店の出店から開始し、現在では郊外型の大型店も多数オープンさせるに至っている。関東はまだ赤字であるが、新店は順調に立ち上がっているという

また、例えば、北陸地盤のDg.S企業のクスリのアオキはかねてから生鮮、惣菜のコンセッショナリーを導入したSM型の店舗を開発してきたが、昨今ではSM企業をM&A(合併・買収)することで、SM自体の展開にも踏み込んでいる。こちらも22年度上期段階の「フード」(食品)の売上高構成比は41.8%と高い水準にある。

同じく北陸地盤のDg.S企業のゲンキーは、当初から自前で青果、精肉、鮮魚、さらには惣菜といったように自社のフォーマットにラインロビングしてきている。フォーマットのコンセプトは「近所で生活費が節約できるお店」。非常にSMに近い店と考えることができる。

同社の場合、生鮮も惣菜も全てセンター供給のアウトパック。発注も全て本部で行い、店は陳列するだけ。商品が売り切れても、次の納品まで品切れを許容するなど、徹底した割り切りとローコストオペレーションを徹底している。

そのローコストから生み出される低価格は同社の大きな強みだ。

食品を強化しながら生活圏に近づく無印良品

また、「無印良品」を展開する良品計画は中期経営計画の2030年までのビジョンとして「日常生活の基本を担う」「地域への土着化」を掲げ、「生活圏における個店経営を軸とした地域密着型の無印良品の事業モデル」構築を目指している。

その中で、SMとの共同出店と並んで、食品の取り扱いを強化することによって「来店頻度の向上」を目指す取り組みを積極化。この1月には本社ビル1階部分にそのモデル店となる「MUJIcom東池袋」をオープンした。

「MUJIcom」はより必需品に特化した品揃えをコンパクトに展開する小型フォーマットだが、今回の特徴は初めて弁当や惣菜などを展開した点にある。しかも、弁当や惣菜は店内製造。これまで銀座など一部店舗で取り扱ってきたアウトパックの弁当とは一線を画している。

厨房にはフライヤーやスチームコンベクションなどを配備しており、カット済みのキットなどを活用するものの、炊飯も含め多くを店内で行うことで、より「出来たて」の商品の提供に努める。

さらに同店では弁当、惣菜だけでなく、野菜や日配なども展開するなど、これまで取り扱ってきた非食品、加工食品と併せ、日常生活のワンストップショッピングを担う機能が強化されている。

もともとMUJIcom自体、来店頻度向上を目指して開発されたフォーマットだが、今回、品揃えを一から見直した中で、さらに来店頻度向上に寄与しそうな中食を加えた形。東池袋の状況を見ながら、今後、地域密着型の小型店として住宅地立地、オフィス立地などへの出店を模索していく

中食をベースにより住宅地寄りへ、お客に近づく無印良品の動きは、今後、SMにとっても競合となってきそうだ。

それでもやはり、「SM経営は難しい」

一方で、ヨークベニマルの大髙善興会長は、60年以上、SMのビジネスを手掛け、フォーマットを磨き続けてきた経験に基づいて、「SMにとって重要なのはやはり人材。そしてとにかく技術とマネジメント。非常に難しい業態だ」と語る。

確かに、ハンドリングの難しい生鮮や製造小売業でもある惣菜を含み、かつ多様な性質を持つ商品を1つの店で展開するSMは、非常に難しいビジネスであるといえる。商品レベル、価格などさまざまな要素を組み合わせ、顧客満足度を高めた上で利益が出るようなフォーマットを展開するのは容易ではない。そしてそれを実現するのはあくまで人材であり、その技術とマネジメントの力が問われる。

前述のコスモス薬品は、食品の売上げが過半になっているが、一方で取扱商品はグロサリーと日配にとどめている。生鮮や惣菜については集客の武器になることは認めつつも、「ノウハウがない」として現時点での参入を明確に否定している。

もちろん、そうした難しさの中にあっても、挑戦を続けることで次第にノウハウも蓄積されてくる側面もあるだろう。むしろSMが比較的不得意とされる非食品については、Dg.Sなどの方がノウハウを持っていると考えることができる。非食品の粗利益をベースに、粗利益ミックスで食品を低価格で販売することもできる。

古くから競合であるとは指摘されてきたが、その競合度合いが次第に高まっていることもまた事実であるといえるのではないか。特に新型コロナウイルスの影響で、改めてワンストップショッピングができる業態の意義も大きくなってきた。

Dg.Sにしても、また、無印良品にしても、SMにとって主力ともいえる生鮮や惣菜での競合度合いが高まっている現実を指摘した。一方で冷凍食品などはSMとしても今後、強化していく方向にあるが、こちらはDg.Sも無印良品も、さらにコンビニも長年取り扱ってきた歴史がある。その意味では真っ向勝負である。

食品のマーチャンダイジングのレベルを向上させながら、ワンストップショッピングの利便性を向上させ続ける他業態は、やはり大いに注意すべき存在といえるのである。