『変遷するリーダーシップの捉え方』 小野善生先生

滋賀大学 経済学部 教授

 

 

リーダーシップの捉え方は移り変わる

リーダーシップが本格的に研究されるようになった20世紀初頭から現在に至るまで、様々なアプローチに基づくリーダーシップ研究が登場した。リーダーシップ研究の変遷を見ていくと、一定の時期に中心的なものの見方、すなわち、パラダイムと呼ばれるべきものがいくつか存在していることが分かる。今回は、リーダーシップにおけるパラダイムの変遷と今後求められるリーダーシップについて論じていく。

リーダーシップ研究の軌跡

当初の捉え方は、リーダーシップは特定の資質を有している人物のみが発揮できるものであるという前提のもと、その資質を特定するというものであった。だが、現在に至るまで共通理解を得られる結論に至っていないのは、この連載ですでに述べた通りである。

資質に代わって注目されたのが、行動特性である。つまり、特定の行動特性を満たせばリーダーシップを発揮できるという前提に基づくアプローチである。ここでの結論は、二次元のリーダーシップ行動特性としてその後の研究に多大なる影響をもたらした。リーダーシップの行動特性を探求する研究が、隆盛を極めたのが1950年代から70年代前半であった。その当時はいわゆる工業化社会の全盛期で、決められたことをきちんとこなして生産性を挙げることが至上命題であった。そのためリーダーシップの行動特性を明らかにするアプローチは、フォロワーが決められたことをきちんとこなして成果を上げるように働きかけることこそがリーダーシップだと考えられていたのである。

ところが、1970年代後半になるとリーダーシップ研究の中心地であるアメリカ合衆国の経済環境が変化し、とりわけ企業は環境適応すべく抜本的な変化が求められるようになった。実際に大胆な組織変革を実現して業績を立て直す経営者が登場し、それに呼応するようにリーダーシップ研究においてもカリスマ的・変革型リーダーシップに代表される組織変革を導くことこそリーダーシップであるという捉え方が主流を形成するに至った。

人々の意識の変化を促して組織を変えることがリーダーシップであるという捉え方は現在論じられているリーダーシップ研究でも同様であるが、その捉え方は初期の頃とはずいぶん異なる。何が異なるのかと言えば、フォロワーの位置づけである。当初の変革をもたらすリーダーシップでは、魅力的なビジョンを打ち出し、組織の先頭に立って変革を主導するという、いわゆる「強いリーダー」にフォロワーが受動的についていくという構図の議論が中心的であった。しかし、環境の不確実性が高まり、タスクの複雑性も高まると1人の強いリーダーが常に的確な判断を下すことができなくなった。そこで注目されるようになったのが、フォロワーの能動性である。サーバントリーダーシップやアダプティブリーダーシップといったアプローチがその代表例である。

今後求められるリーダーシップとは?

このようにリーダーシップ研究は、リーダーの資質の特定からフォロワーの能動性を引き出すという様々なアプローチまが展開されてきた。今後求められるものは、ポジションに関係なく誰でもリーダーシップを発揮すること、そして、フォロワーシップを発揮してそのリーダーをバックアップするという柔軟性に富んだリーダーシップとフォロワーシップの発揮であろう。