~デジタルシフトの嵐のなか、マネジメント・システムの見直しが急がれる~
BBT大学院教授・公認会計士・税理士

8. 「利益第一主義」に厳しい視線が
この半世紀ほど、“経営の目的は利潤極大化である”と当然のようにいわれてきた。だが、いま厳しい批判にさらされている。確かに経営を継続するために利益やキャッシュを産み出し続けることは欠かせないが、それは経営の手段であり目的ではなかったはずだ。マネジメントの歴史のなかで、利益第一主義というやや特殊な経営観は、最近50年ほど唱えられたに過ぎないのである。
利益第一主義に代わって、ステークホルダーなどの共鳴共感を得られる経営目的を明確にする、こうした経営観が波紋を広げている。パーパス経営などに代表される“経営の存在意義”を問う動きである。
9. 会社のビジョンを自分のことに
パーパス経営に舵を切った味の素は、2年にわたり役員が合宿を繰り返して自社の存在意義を「食と健康の課題解決」であると定め、さらに2年をかけて「世界の健康寿命を延ばすことに貢献」するとのビジョンを具体化した。そのうえで、パーパスやビジョンを腹落ちしてもらうことを目ざして従業員との対話を重ね、組織・個人目標に落とし込んで全42組織での個人目標発表会を行い、その後の実践を経てベストプラクティスを社内SNSで共有し、エンゲージメントサーベイを実施して振り返る、といったようにPDCAの経営サイクルを回し続けている。
経営理念をスローガン倒れにしないで、従業員や取引先や地域社会なども含めたステークホルダーが共鳴共感できる、まさに腑に落ちる経営の進め方は、VUCAともいわれる時代だからこそ注目を浴びている。「ビジョンを自分事化した従業員を一人でも多く増やしたい」と、味の素CEOはその志を吐露している。
10. 経営指標の体系化とPDCA化
経営の存在意義を経営戦略に具体化する手段として、経営指標の体系化に取り組むことが上場企業に限らず多くの企業で、かってない規模で進められている。そのポイントを次に掲げる。
- 数値化する
経営目標を数値化することが第一歩。感覚的・定性的な表現を数値化することで、目標達成のためにどうすべきかが明確になる。マネジメントとは、実践的には数値を変化させることなのだということが、デジタルシフトの嵐のなか共有される環境が整備される。
- 経営指標を関連付ける
経営目標の数値化を通じて、経営指標を関連づけ体系化する。経営全体の上位目標を経営指標として設定しこれをブレイクダウンし、非財務指標を含んだKPIを関連付けてツリー状の体系を設定するのである。
味の素は、財務指標としてROIC等を掲げ、非財務指標としては従業員エンゲージメントスコア等を掲げた構造目標を公表している。
- 経営全体の経営指標
経営全体の経営指標としては、投資家等のステークホルダーがいる場合(上場企業等)にはROEやROICなど設定することが典型的だ。
投資家等の存在しない中小中堅企業の場合には、ROAなどを設定することが有効である場合が多い。
- PDCAを回す
経営指標の変化をPDCAサイクルの中に組み込み、経営指標の変化をマネジメントの肝とすること。
経営目標達成のためのツールがマネジメント会計である。自社の「管理会計」はPDCAサイクルに組み込まれているか棚卸をすることが、急がれる。