全社的な労災対策で成果をあげたい・・・

コーネル大学RMPジャパンの講義の中に「労働法 ① ②」がある。弁護士の木下 潮音先生にご担当頂いているのだが、講義での話題「小売業の労災事故、死傷事故件数は建設業や製造業に比べても多い」に驚き、疑いを持ったことがある。この話題に関する記事が、日本経済新聞(2月11日付 朝刊)に掲載されていた。「小売りの労災、建設超え」「20年間で4割増」というもの。サブタイトルに「平和堂、作業手順を作成」ともあった。

▼小売業での労働災害の増加が深刻で、年間の死傷事故件数は過去20年で4割増え、建設業を上回ったというものだ。厚生労働省のデータを基にした日本経済新聞の推計で、21年に小売業で起きた死傷事故(休業4日以上、新型コロナ感染を除く)は1万7千人弱と過去20年で39%増えたと記事は書かれている。この間に小売業の就業者人口は7%減り、従業員1人当たりの事故件数も増えているのだ。1972年に成立した「労働安全衛生法」は、高度経済成長下の第2次産業の職場改善が急務だったもので、労災対策は製造業や建設業に重きが置かれてきたし、私たちもそう考えて来た。ところが、21年の死傷事故件数は製造業で2万7千人弱と過去20年で37%減。建設業は約1万5千人と46%減り、20年に初めて小売業と逆転したのだ。

▼小売業の労災が増え続ける主因の一つが、就業者の高齢化。労働力調査(総務省)によると、小売業で働く65歳以上の人数は96万人(21年)と、01年から5割以上増えている。身体機能が低下した高齢者はケガしやすく、事故件数の高止まりを招いているのだ。二つ目は、機器類の活用などによる省人化の遅れ。企業活動基本調査(経済産業省)によると、従業員1人当たり労働生産性は、製造業の約1100万円に対し、小売業は500万円弱に止まる。労働集約型の働き方を変えなければケガのリスクを減らせない。そして、三つ目が、経営者の安全意識の低さと指摘している。小売りの現場で起きる事故の多くは転倒や切り傷など軽微なものが多いこともあり、認識が比較的薄いとの指摘だ。

▼記事では「平和堂の取り組みは製造業では当たり前にみえるが、小売りでは先進的だ」と評価している。従業員の一つひとつの作業を分析し、安全対策を盛り込んだ手順に落とし込む。例えば、鮮魚や青果を調理する際は切り傷を防ぐ手袋着用を義務化。転倒防止のため脚立の天板に乗ることを禁止。対策は本部の発案だけではなく現場も知恵を絞ると。「全社的な労災対策で成果をあげる企業は平和堂など一部」とあるが、そうでもないはず。ただ、「腰痛」などの悩みなどはよく聞く。作業環境を考えると、これも労災にあたるかも知れない。腰痛に限らず慢性化すれば日常生活にも影響するのだから、社員の労働環境を重視しないと店舗運営が立ちゆかなくなる可能性も大きい。いずれにしても不名誉な記録は業界全体としても早く払拭したいものだ。

(2022・02・15)