芝浦工業大学非常勤講師 エム・ビィ・アイ代表
■食品二次機能型ビジネス(ストア)
◆はじめに
小売実店舗にとって人口減少・高齢化の影響はいろいろと考えられるが、特に重要となるのは次の2点だろう。
①多くの商業施設が集中する大都市ほど急激に高齢化が進み、年齢構成・世帯構成=ライフステージ・ライフスタイル・消費行動=消費構造が大きく変わる。しかも商業施設の主要立地である3~30万人規模の都市は地方を中心に激減する。
②日本はオフィス・官公庁・公共施設・商業施設などが集中する都心、都心周辺のベッドタウン、地方主要都市(周辺ベッドタウン含む)、過疎地域の4つに分けて考えることができる。多くの点で人口減少・高齢化の影響が大きく、リスクが高いと考えられるのが、SM実店舗の主要立地でもある首都圏を中心としたベッドタウン、そして地方主要都市である。ベッドタウンの首長は、特にこれといった産業を持たないサラリーマンの街が高齢化し、リタイアした人で溢れた時の状況を危惧している。
SM実店舗が固定商圏における日常食という限定されたマーケットを主な対象とする限り、人口が増加した後、急激に高齢化が進むこれらの地域の影響を直接受けることは容易に想像できる。さらに、これらの地域は、EC活用、地方納税でも高いウエイトを占めている。様々な分野に影響が出ると考えるべきだろう。

図表は、「食」をベースにして顧客ターゲット×オケージョン=マーケットを整理したものである。基本機能が、モノがモノとして成り立つ必要最低限の条件であるのに対し、二次機能は基本機能以外の副次的な機能であり、「食」の持つ多様性を考えると、非常に幅の広い分野が対象となる。
SM実店舗は主な調理者である主婦と日常食という固定商圏の限られたマーケットを対象としている。図表からも分かるように周辺にはまだ多くの多様なマーケット(顧客ターゲット×オケージョン)があり、新たな成長の可能性を残している。
少しデータは古くなるが、平成19年の商業統計によると、東京都の卸売業は全国の14.1%の事業所数、22.6%の従業員数で実に全国の39.9%もの年間商品販売額を実現している。一方、同じ東京都でも小売業は同9.0%の事業所数、10.3%の従業員数で年間商品販売額は12.8%に過ぎない。卸売業の1事業所当たり売上が全国平均の約3.5倍、従業員1人当たり売上が同約2倍であるのに対し、店舗面積、商圏が限定される小売業はそれぞれ1.4倍、1.2倍強でしかない。
この違いは固定的なマーケットに対する現品販売という実店舗の販売形態によるものと考えてよいだろう。
すでに百貨店はビジネスモデルの限界を、都心立地、限定された大規模施設という条件を生かして不動産開発やデジタル化によってカバーする方向で動き出している。
一方、実店舗を数多く展開するチェーンストア業態は、立地・規模、店数、自社物件比率などから百貨店のような対応が難しい。武器であったはずの店数の多さがかえってリスクとなる。損益分岐点が高く、固定費の塊である実店舗(網)を生かそうとすれば、損益分岐点を大幅に下げるような構造転換を図るか、ビジネスモデルを転換して人口減少・高齢化の中でも収益が上げられるような修正をするしかない。新たな収益源をどのように確保するかが重要なテーマになっている。
★多様な収益源を得るための方向性
加工機能を持つSMはホームセンター(以下HC)同様に商品・仕入れルート、商品の加工技術・施設・設備・技術者などに加え、店舗施設・設備・空間、人材・技術など持てる経営資源は多岐に渡り、未だ収益源として有効活用されていないものも多い。すでに店頭が広告宣伝の場として活用されはじめているというように、利便性がよく、毎日たくさんの人が集まる「場」はアイデア次第で収益源となりうる要素が多い。
B2C、しかも日常食小売のような固定的なマーケットに限定せず、食に関連したサービス分野、B2B、EC、その他B2C、B2B、C2C、C2Bを対象としたリアル・プラットフォームなど収益源として可能性のある分野は様々であり、未だ手つかずのマーケットも多い。
他企業・個人事業主などとの連携により、これまでの小売販売専業から、物に加え、空間・設備・人・技術などのシェア、サブスクリプションを加えた商品提供とサービスの融合へと事業を広げることは地域の活性化にもつながる。(一般社団法人日本ショッピングセンター協会の「ショッピングセンターにおける新規雇用創出の実態に関する調査結果2009年3月17日2008年オープン73SC中60SCが回答 矢野経済研究所」によると、1つのショッピングセンターができると都市の規模(小規模の方が多い)にもよるが19000~26000人の地元採用があるというように、雇用創出が地域活性化には重要になる。)
小売販売は手離れは良いが、その分、消費者との関係は希薄である。同じ「食」関係でも、例えばシェフ派遣のようなビジネスモデルであれば消費者のプライベートな空間・状況と直接かかわることになる。このような事業者とのコラボが実現すれば、多様な商品・サービスチャネルを生かしたネットワークなど、新たな食マーケットを開拓する可能性も高まるだろう。
高齢者単独世帯、共稼ぎ世帯の増加など、消費サイクルを自力で完結することが難しい世帯の増加は、身近な消費生活のサービスニーズを確実に高める。また、人生100年時代と言われるように時間消費へのニーズが高まっており、参加・体験型消費、自己の成長、QOL(Quality of Life)向上など、消費者のニーズは「物の充足」から「状況の改善・充足」、「物中心」から「自分中心」へと移っている。
そのようなニーズの変化に対応し、実店舗の特性を生かして収益を高める一つの方向として「二次機能」型ビジネス(ストア)という、新たなマーケット開拓のビジネスモデルを提案したい。
食の周辺にあるビジネスチャンスとしては次のようなものが考えられる。
①消費サイクルを自力で完結できない人への機能補完サービス
②プロの技術・裏ワザ・知恵などの活用による日常生活の効率化、時短、QOL・利便性アップ
③美容(アンチエイジング)、健康(セルフメディケーション)
④SNSなど企画・演出補助(自己主張、自己実現のための題材・小道具)
⑤食事会やティータイムなど、歓談・交流・交歓の企画・演出・プロデュースなど
⑥誕生会など日常の中にあるプライベイト・イベントの企画・演出/プロデュースなど ケ(日常)のハレ(祭日)化/ハレのケ化
⑦バーベキューなど共同作業・共通体験の企画・演出・プロデュースなど
⑧キャラ弁、魚のさばき方、プロの調理など、知識・技術習得による自己の成長
⑨遊ぶ・楽しむ(時間消費) 食のテーマパーク・アミューズメントパーク ケのハレ化(日常にある食を遊ぶ・楽しむ)
⑩例えば肉をテーマに特化した専門店ビル・ショッピングセンター特定分野に特化したキュレーションスペース
以前から、カラオケビルのような都市型の全天候型バーベキュースペース(1階or地下に食材売場、上階がバーベキュースペース)を提案しているが、買い物ついでの家族、学校や職場の人達が手ブラで気軽に寄ることができ、みんなで調理をしながら楽しめる共同作業・共通体験の「場」は確実にニーズがあると考えてよいだろう。
近場、気軽、手ブラという条件によって、日常(ケ)の中に非日常(ハレ)が生まれるように変われば、自ずとQOLも高まる。(*手ブラは旅行、キャンプ、バーベキューなどですでにサービスがはじまっている)
余命が伸び、単独世帯が増えて、人との交流、自分の成長などが重要なテーマになれば、モノの消費よりもコト消費・時間消費が重要な意味を持つように変わる。
「食」は単に空腹を満たす基本機能から、人が集い、交流・交歓することで楽しみ、心を満たし、豊かな生活を実現するための二次機能へとウエイトを移すように変わるべきだろう。さらに人生100年時代は終生教育が言われるようにポジティブに成長し続けることも重要なテーマであり、知識・技術習得、自己実現、様々な体験、食文化の伝承・体現、それらを通してネットワークによる交流、...等々。「食」ビジネスにおいて「食」を介した幅広いマーケットの発展・成長は必須と考えるべきである。
SM実店舗が次のステージでも主役として生き残るには、そこで重要な役割を果たすことが必要になる。
消費者の志向がケ(日常)のハレ化(祭り、非日常)、物の充足から状況の改善・充足、物中心から自分中心(参加・体験・成長)・QOLの向上へと向かっていると考えれば、消費者の最も近くに位置する実店舗がそこに対応しない限り消費は活性化しないと考えるべきである。