店舗とデジタルを一体化した企業に変身することが不可欠・・・

中国で「小売業の奇跡」と称され、世界の大手小売業幹部が相次いで視察する中国企業があるという記事があった。日本経済新聞(3月7日朝刊)の「経営の視点」に、日経中国総局の多部田俊輔氏が執筆していた。河南省の地方都市、許昌市を拠点とする胖東来(パントンライ)商貿集団(1995年創業)で、消費の停滞が懸念される中で堅調な業績を残し、今年も新たに3拠点を設けるとある。

▼「おいしくなければ、お宅に伺って返品を受け入れる」など、品質とサービスを最優先とする売場づくりに加え、「安くはないが、従業員の対応が最高で商品に対する安心感がある」と近隣顧客の声を紹介している。品質とサービスを最優先するために、400項目以上のマニュアルが用意され、それを順守させるために従業員の待遇を徹底的に改善したという。給与面では、地域の同業比で3割以上高くした。休日も週休2日を確保できるという。有給休暇は年間30日間以上あり、10日間は旅行に行くことを求めているのだ。厚生施設面でも無料利用できる休憩室、シャワー室、ジム、読書室なども用意している。しかも、従業員に対し店舗別の収益や今後の店舗展開に加え、個別店舗の経営方針を詳細に共有するシステムを持つ。利益の3割を従業員に配分するなどしてやる気を促している。社内会議の大半は従業員から上司への提案で、売場のサービス向上などにつながることが多いという。注目されるのは、店舗の入り口の看板に、同社が「学習」する企業としてイトーヨーカ堂を掲げ、店内には「素養(SHITSUKE)」「清掃(SEISO)」などと書かれたスローガンが目立っているらしい。

▼そのイトーヨーカ堂に関する話題だが、セブン&アイ・ホールディングスが投資ファンドから、イトーヨーカ堂の売却を求められているという。セブン&アイは約2兆3千億円を投じ、米国コンビニエンス企業とのM&Aを実施、コンビニ優先戦略にかじを切った。イトーヨーカ堂の売上高はピーク時の1999年2月期・1兆5634億円から1兆809億円(2021年2月期)まで低下、店舗数も182店舗から129店に縮んでいる。これまでのいくつもの再生策が上手くいかなかったのだからファンドの言い分は理解できなくはない。

▼それでもヨーカ堂を続けて欲しいと願う。小生が社会人としての最初に勤務した企業だからというだけでなく、1日に140万~150万人が来店する顧客は偉大な資産のはずだ。コーネル大学RMPジャパンの講師である矢作敏行先生(法政大学名誉教授)も「今後は店舗の価値が高まる。世界の小売業の趨勢を見ても、店舗とデジタルを一体化した企業に変身することが不可欠」と米国での投資をデジタルに回すべきだったとの意見をつけて、売却に反対のコメントをしていた。

スーパーマーケット企業の、店舗の価値を高めるためのデジタル戦略に注目したい。

(2022・03・10)