鶏卵で国内最大手のイセ食品が11日、会社更生手続きに入ったとの発表があった。グループ会社も更生手続きに入り、2社合計の負債総額は453億円と帝国データバンクが伝えている。鶏の飼育・産卵から包装までを各地で一貫して手掛けることで、安定した品質を高いレベルで保つことの出来る企業で、健康志向の商品開発にも力を入れて、競争の厳しい業界の中で独自色を打ち出して来た。機能性表示食品「森のたまご」を90年に発売、2019年にはEPAなど魚由来の成分を多く含む機能性表示食品「伊勢の卵」を発売している。
▼1912年に富山県で創業したが、60年代に首都圏の市場を狙って埼玉県鴻巣市に進出し、農場や工場を設けた。この時期のご苦労に関するエピソードの数々は心打つものがあった。約70%を小売り向けのパック卵として出荷しているのでSM業界にも馴染みある企業になる。社員はオフィスで勤務する時には、卵黄をイメージした黄色のジャケットを身につけている。社員の卵への一途な愛情と情熱が、鶏卵業界を支えている感じを持っていた。信頼に足る企業のひとつと思っていた。
▼ただ、2018年に大阪の格安スーパー「玉出」を取得した時に「えっ!」という感じがしないでもなかった。買収の母体は前会長の伊勢彦信氏が個人で全額出資する不動産会社のアイセ・リアリティーでイセ食品とは関係は一切ないのだが、「玉出」は黄色と赤を組み合わせた派手な看板や「1円セール」などで関西圏での知名度が高いスーパーマーケットだ。インバウンドで訪日客が多い時にもよく話題になっていた。その店舗を視察した時のコメントが「普段見るスーパーと違っていて、新鮮で面白いね」というものであったからだ。
前会長は、父親が始めた事業を大きく発展させ、半世紀に渡りトップに君臨、80年代には米国で「エッグキング」と紹介されるほどであったが、国税当局から7億円の個人としての申告漏れ、イセ食品としても2011年に脱税事件を起こしていた。近年は過剰債務を抱え、資金繰りが悪化していた。21年には資金確保に関する報道もあった。
▼鶏卵は「物価の優等生」と言われており、わが国では価格が安定している商品のひとつであり、現在もSM企業での特売頻度は変わらず高い。しかも96%が国産である。
2~3年周期のエッグ・サイクル,4~5年周期のピッグ・サイクル(米国には約10年周期のキャトル・サイクルもある)のように畜産物に多くみられるのだが、零細な生産者が生産計画時の高価格に対応して生産を拡大したとき供給時に供給過剰がひき起こされ,逆に低価格に対応して生産を縮小すると供給不足がひき起こされることによるという経済モデルがある。しかし、最近の生産は安定し、供給過剰の結果としての低価格状況が続いている。その上、飼料や燃料など生産コストは上昇しているのだ。
イセ食品だけの問題ではなく、鶏卵業界の縮図にも見えてくるので少し心配になる。
(2022・03・15)