『12.「食」のテーマパーク型ストアをつくろう』小松崎雅晴先生

芝浦工業大学非常勤講師 エム・ビィ・アイ代表

◆なぜ、食のテーマパーク型ストアなのか

食品関連企業の中には工場見学を実施している企業が多い。商品や自社への理解を深めることで親近感を持ってもらい、イメージアップやファン拡大を図ることがネライである。そこでしか得られない知識・味わえない体験、他では入手できないお土産(試供品)や限定販売品、無料の試食・試飲、…等々。消費者にとっては、ふだん味わうことのできない特別な体験が得られる「場(空間・時間)」である。メーカーや店舗の裏側紹介はテレビでも外すことのできない人気企画の定番である。放送直後に紹介された店や商品の売上が伸びることを見れば、トリビア的情報(trivia雑学的知識)は企業にとって「消費者に響く貴重な販促資源」となっている。

また、地方・郊外にある動物園、水族館なども近年集客に様々な工夫をしており、「未知の体験ができる場」として多くの支持を得ている (*コロナ禍でどこも苦戦しているが....) 。これらの施設は、教科書的世界とは異なる「裏側の世界」を見、聞き、体験できる特別な「場」として、家族連れやグループ・団体、カップルなどに人気が高い。一方、アクセスのよい都市型レジャーの人気も高まっている。(*ここもコロナ禍で苦戦している)

都市部には、歴史的建造物・庭園や新たに誕生した観光名所、美術館・博物館、動物園・水族館・植物園・公園、スポーツ施設・競技場、多目的ホール・シネマ、各種テーマパーク・レジャー施設・スパなどの温泉施設、商業ビル・ショッピングセンター・百貨店・商店街、SNSで紹介される有名店や〇〇の聖地と呼ばれる街、…等々、数え上げたらキリがないほどの施設がある。しかもどこへ行くにもアクセスがよい。限られた時間、チョッとした空き時間でも色々に使える便利さは、都市周辺に住む人ばかりでなく、域外から訪れるビジネス客・観光客にとっても特別なエリアである。

近年では、身近な大型ホームセンター・ペットショップ・園芸店などがチョッとした動物園・水族館・植物園の代わりを果たし、カップヌードルミュージアム、東京おかしランドなどで見られるコンパクトでオシャレな商品づくりは工場見学の代わりにもなっている。近くて便利、かつオシャレは都市型レジャーの重要な要件である。また、子供ばかりか、大人からも絶大な支持を得ているキッザニアやグッジョバ(よみうりランド)のような仕事をテーマとした「学習体験・成りきり型テーマパーク」は、新たなジャンルを形成しつつある。情報化は消費者の興味を様々に広げ、これまで一般とは無縁と思われていた専門分野や舞台裏が貴重な資源となっている。

消費者の志向(嗜好)、欲求の変化は、動物園の進化の仕方を見ると分かりやすい。動物そのものが珍しかった時代、図鑑の写真や挿絵でみた「動物の生きた姿をただ見る(形態展示)」だけで十分お客の欲求を満たす(動物園の役割を果たす)ことができた。本物の生きた動物が見られることや教科書的知識に意味(来園動機)や(時間とお金をかける)価値があった。時代と共に娯楽は多様化し、ただ見るだけという動物園は飽きられるが、そのような動物園に再び多くの人を呼び戻したのが旭山動物園である。餌をもらった時の反応を見ながら解説が聞ける「エサやり観察ガイド」、動物本来の生態が観察できる放し飼い、檻の外からでは決して分からないカバ、アザラシ、ホッキョクグマなどの水中での様子が観察できる展示、昼間ただ寝ているとしか思えない夜行性動物の、夜に活動する様子を見せる閉園時間の延長、…等々。飼育員しか知ることのない生きた動物が活動する姿、ありのままの動物たちの姿を見せる(行動展示)ことによって動物本来の姿を体感させ(臨場感や動物の躍動感を直接肌で感じる)、大きなインパクトを与えることに成功した。

教科書的世界とは異なるリアルな世界を体験することは、来園者の興味・好奇心・知識欲を刺激し、充実感や高揚感、時には優越感ともいえる特別な感情をも抱かせる。新たな動物園を体験することによって得た感動・発見は、新たな来園動機、来園目的となって人々を次なるステージへと進化(深化)させる。その結果、「良いことは他人に教えてあげたい、教えずにはいられない」という口コミの心理が働き、彼らが発信者となって、さらなる集客に拍車がかかる。良い循環はスパイラル状に拡大していく。いまでは多くの動物園で動物と触れ合い、動物を体感できることが当たり前になりつつある。動物園という施設のもつ意味、動物園に行く目的が大きく変わり、新たな動物園の進化がはじまったといってもよいだろう。

このような動物園の進化の仕方は、消費者と事業者が共に進化・成長する構図の一つのプロトタイプでもある。消費者は新たな発見に感動し、刺激を受け、それによって自分の中の何かが変わり、思考や行動の変容が起こる。動物園の場合、ただ動物を見、写真を撮ってそこで終わるのではなく、その感動を直接誰かに伝えたい・SNSで発信したい、何らかの形に表わしたいというように、その後の行動へとつながっていく。「その場だけ」でなく、その後に起こる行動変容までを含めた一連のプロセス全てが「新たな消費の形」と理解することができる。そう考えれば、いま提供者に求められるのは、その場だけで終わる独立した商品・サービスの提供ではなく、このような「消費者の行動変容をもたらすような一連の消費体験」ということになるだろう。

失われた30年を経て、多くの施設が、その施設を訪れる目的、意味(動機)、価値(時間・費用・手間の代償)などを再構築する時期に来ている。当然、食ビジネス(ストア)もただ単に「食材」を供給するだけの提供者から、何らかの体験を通して消費者の興味や好奇心、知識欲を刺激して感動を与え、消費者の進化(深化)・成長を促すパートナーに変わることが新たなステージでは求められる。筆者が「二次機能型ビジネス(ストア)」を提唱する重要な理由である。

食の二次機能型ビジネス(ストア)には様々な形が考えられるが、その中でもテーマパーク型ストアはSMに動物園と同じような進化をもたらす一つの形と考えられる。テーマパークの定義(経済産業省)では「①特定の非日常的なテーマのもとに、②施設全体の環境づくりを行い、③テーマに関連する常設のアトラクション施設を有し、④パレードやイベントなどを組み込んで、⑤空間全体を演出する」とある。「食」がテーマであれば、日常と非日常をどう線引きするのかは難しいが、いずれにせよ、これらはテーマパーク型ストアを考える上で参考になる項目になる。

すでにアパレルの試着専門店をはじめとして「商品を売らない店」は増えつつある。お客は、商品を見・触れ・試し、新たな体験をする。欲しい商品はECで注文する。売らない店は、消費者、事業者共にメリットがある。消費者は、ショールーム的空間で様々に時間を過ごすことができる。例えば、自分のアバターを作り、商品を疑似体験することはもちろん、アバターのプリクラやLineスタンプ、アバターを取り込んだゲームなど、店内で様々に楽しむことも可能だろう。ポイントやクーポン付与といったお得要素を加えれば、その空間は消費者にとって「買物」+「遊ぶ」+「得する」+「新鮮な買物体験」の空間になる。5GやAI(人工知能)、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などデジタル技術の進化を考えれば、このような要素を備えた店舗空間もいずれ特別ではなくなるのだろう。

一方、事業者は、個々の店に商品を配送する手間・コスト、売れるかどうか分からないのに店数分持つ在庫が不要になり、在庫の効率化・集中管理が可能になる。さらにEC限定であれば現金取り扱いが不要になり、顧客情報も確実に収集できる。リアル店舗の一つの進化形、次世代のプロトタイプになるだろう。

◆テーマパーク型ストア

「食」に関しては、これまで様々なテーマパークやアンテナショップがつくられており、それらは①総合的なテーマパーク(小売で考えるとショッピングセンター)、②単独テーマのテーマパーク(同大型専門店)、③同一業種店舗を集めた形態(同専門店ビルやカテゴリーキラー)、④地域の特産品・名産品の販売 のように整理できる(図)。

施設の規模、商品・サービス内容、表現形態、入場・入館料の有無など施設の性格により様々だが、それらの施設で行われる内容は、●同一業種の有名店の集積、●工場見学・体験教室・オリジナル商品製作、●商品に関する知識・歴史などの資料展示・解説・視聴、●一般商品・限定商品の販売、●試食・試飲、飲食、●ゲーム・アトラクション・実演、…など、ほぼ内容は限られている。

これらを参考に、物販中心の既存SMから転換しやすい形態を考えると、直営・コンセッション・テナントなどによって構成される、特定分野、特定テーマに特化した形態だろう。
例えば「肉」をテーマとすれば、物販では豚肉専門店(orコーナー、以下同じ)、牛肉専門店、鶏肉専門店、焼き肉用肉専門店、ステーキ用肉専門店、熟成肉専門店、焼き鳥用肉専門店、ラム肉専門店の他、内臓・足・ミミ・尾・ガラなどの専門店、ジビエ専門店(シカ・猪・クマなど)、ダチョウ・ワニ・ラクダ・カンガルー肉などの専門店、加工肉や乳製品・玉子などの専門店、昆虫食専門店、代替肉専門店などの他、半調理品・調理済み品(惣菜)、冷凍食品、調味料などといった加工品や周辺商品の専門店による構成が考えられる。

これらにイートイン、書籍・DVDの視聴・販売、クッキングスタジオ、シェアキッチン、体験教室などのサービス機能を加えてまとめ上げれば、テーマパーク型商業施設の形が出来上がる。あとは食べる、楽しむ、遊ぶ、学ぶ、つくる、参加する、体験する、交流する、…などの要素の組み合わせ、日常と非日常のレベル調整をすれば施設としての性格が決まる。

もちろん、従来のショッピングセンターのように、ただテナントを集めて並べるだけではすぐに飽きられる。「食」に関するプロデュース業であるためには、お客の共感を得、飽きさせないための企画・プロデュースが必要になる。物販とサービスを密に連携・連動させ、全体を一つのシステムとして機能させる仕組、会員の組織化、SNSによるプロモーション、マスコミ対応なども不可欠である。(B2B、プラットフォーム機能など幅広い収益源を持つことも重要になるだろう)

 二次機能型ストアにおける事業者と消費者の関係は、ある意味テーマパークとゲスト(顧客)の関係に似ている。消費者の共感を得る世界観、それを具体的に表現する空間・時間、その構成要素である様々な商品・サービス、そこでの体験、…等々。消費者に感動を与え、ともに進化・成長していくことができる「場」は、既存の小売業態とは異なる関係性を創り出す。小売業態とは異なる「食」ビジネスの一つの進化形として、マーケットに位置づけられるべき業態である。