芝浦工業大学非常勤講師 エム・ビィ・アイ代表
■Stew Leonard`s に見るテーマパーク型SMのイメージ
「テーマパーク型ストア」という言葉から、まず思いつくのは、何といってもスーパーマーケットのディズニーランドと言われるStew Leonard`s である。YouTubeを見ると、売場のアチコチに置かれた人形たちが、ディズニーランドのイッツ・ア・スモールワールドのように楽器を奏で、歌い、踊っている。子供だけでなく、大人達もみな楽しそうに売場を回っているのがとても印象的である。
「WORLD LARGEST DAILY STORE」「FARM FRESH FOODS」と看板に大書してあるように、売場は昔ながらの農場やマーケットを思わせる作りになっている。レイアウトは、IKEAのようにコーナー化された売場が連なり、お客は順路に従ってワンウェイで売場を回る。日本のSMのように全体を一目で見渡すことはできないが、それがかえって目の前の売場に集中させ、次に現れる売場への期待を高める効果がある。
総菜やスイーツなど各コーナーのバックヤードでは、専門スタッフが商品を作る様子が見られるようになっている。牛乳コーナーでは、牛の人形がお客を迎える後ろに牛乳プラントがあり、パック詰めされる様子をガラス越しに見ることができる。
Stew Leonard`s では、多くの商品を店内で加工・製造しており、店全体がSPA部門(製造小売)の集合体のような構造になっている。お客の目の前で作ることでリードタイムは短縮し、需給調整や原価のコントロールもしやすくなる(もちろん製造ロットという制約はある)。対面販売も可能であり、出来たてをアピールしながら、テーマパークのようにパフォーマンスとして見せることもできる。
お客はコーナーごとにストーリー化された売場演出を楽しみながら買物をし、レジへと向かう。スタッフは皆とてもフレンドリーで、目が合えば微笑みかけ、気軽にあいさつを交わす。筆者も経験があるが、視察ではじめて訪れる人にはどことなく懐かしい何とも言えない雰囲気がある。特に視察で多くの店を見てきた後に訪れると、ほとんどのメンバーがホッとした様子で店内を回り、子供に返ったように目を輝かせて買物を楽しんでいる。どことなく癒される、みんなが好きな空気感である。
YouTubeには、オフィシャルな動画とは別に、店内の様子、買物する様子をお客が撮った動画がたくさんアップされている。お客が動画や写真をSNSにアップするにはそれなりの理由がある。自分がいつも買物している店は、こんなに素敵な店だと誇りに思い、自慢したい、多くの人に知ってもらいたいという意識の表れである。お客目線でその店の魅力をアピールする究極のプロモーションでもある。
Stew Leonard`sでは、バレンタインデー、イースター、ハロウィン、サンクスギビングデー、クリスマスなど、大きなイベント以外にも子供を対象とした料理教室など様々な催しがあり、地域のコミュニティ的役割も担っている。
Stew Leonard`sは誰の目から見ても分かりやすい店であり、筆者が提案するテーマパーク型ストアの重要なヒントでもあるが、そのコピーを作ることには価値を見出していない。急激なデジタル技術の進化、人口減少・高齢化といった日本の現状を考えれば、地域経済を振興し、商圏に限定されずに幅広く収益源が確保できるもっと別のビジネスモデルが必要である。

■「買物という行為」にどんな意味を持たせるのかで店の役割が変わる
Stew Leonard`s に感じる日本との違いは、ディズニーキャストのようにスタッフがフレンドリーな笑顔でお客を迎え、お客も買物を楽しんでいる点だろう。
日本のSMは多くの加工・製造機能を持つが、保健所の指導もあって厳密に分けられているため、それらはお客から見えないバックヤードで行われ、売場とは一線を画している。また、多くのSMがコストダウンや衛生管理など安全上の問題からプロセスセンターや協力工場に加工・製造を集中させている。
お客は日常的に食べる商品がどのようにしてできているのか知らないままに買っていることになる。また、従業員は黒子に徹し、店頭に並ぶ商品からも作り手の顔は見えてこない。お客も(コロナ禍とは関係なく)どこか黙々と買物をこなすから、一度もスタッフと目を合わさず、一言も会話をせずに買物を終えることが珍しくない。買物とはいったい何なのかという疑問だけが残る。
人手不足から省人化・無人化が重要テーマになり、セルフレジやAmazon Goのようなレジなし店舗があたかも次世代の象徴のように喧伝されている。筆者は、本来、買物とは楽しいものと思っているが、ケース・バイ・ケースでデジタル化による簡便迅速な商品購入も重要だと思っている。これらはオケージョンの違いであり、「買物とは何か」「人が買物をするという行為にはどんな意味があるのか」という最も基本的なことの確認と買物形態(=店舗形態)との関係は一度整理する必要があるだろう。
チェーン店の開発商品・メニューをプロの職人が評価するテレビ番組がある。開発担当者は評価者である7人のプロ職人にダメだしをされて涙を流し、全員から合格をもらえば満面の笑みで喜びを表現する。ふだん見ることのない作り手の素顔はどこか新鮮である。全員から合格をもらった商品・メニューは、きっと放送後にはよく売れるのだろう。
消費者心理を理解すれば、SMの裏舞台もCI(corporate identification)やプロモーションの貴重な資源になる。まだ生かされていない資源は多い。
食品メーカーの中には、工場見学やテーマパーク型施設を作ることで、消費者に商品ができる様子を知ってもらおうとしている企業は多い(出来たてでなければ本当の美味しさが味わえない商品もある)。しかし、SMではまず見かけることがない。
近年の傾向として、菓子の製造販売や飲食業などに、商品の製造過程を企業や商品の価値として見せる企業が増えている。
バームクーヘンのできる様子が見えるようにガラス張りにした大丸東京店のねんりん家、周囲3方をガラス張りのブースにし、様々な色の飴を組み合わせ、伸ばし、リズムに合わせて素早くカットするパフォーマンスを見せるPAPABUBBLE(パパブブレ)東京大丸店などは、ずいぶん前から、そのような店舗を作っている。
筆者が3回目のワクチン接種で行った横浜のハンマーヘッド(大規模接種会場)は、「食」と「ファクトリー」をテーマにし、多彩なグルメが「つくられる過程」を見学、体験しながら楽しめる新しい体感・体験型施設と説明にはある。2階にある鎌倉紅谷 Kurumicco Factory 、YOKOHAMA CARAMELLABO、ありあけハーバースタジオは、外から作る様子が見えるように通路に面した壁を全面ガラス張りにしてある 。この他にもクラフトビールやピザなどを提供する店では出来たてが体感できるつくりになっている。新たな付加価値である。



我国のSMでも作業場の中が見えるように設計している店舗は多いが、残念なことに、実際に営業が始まると前面のガラスを商品などで覆い、中が見えないようにしてしまう店が少なからずある。発想を変えて、動物園がやっているようにバックヤードを見せ、日ごろ表からは見ることのできない世界を体験できる店が現れてもよいだろう。
(筆者の独り言) そういえば岐阜のバローには入口前面を天井までガラス張りにしてメリーゴーランドが回るSM店舗があった。通路天井の間接照明などもSMの常識を超えていた。今はどうしているだろうか…。
■新たな進化
スポーツビジネスとして大きく変貌を遂げるMLBをみると、例えばヤンキー・スタジアムのグランド整備はYMCAの曲に合わせてグランドキーパーがパフォーマンスする一つのイベントになっている(別にグランド整備だけを行う専門スタッフもいる)。
グランドキーパーはあくまでも黒子、グランド整備は目立たないように速やかに終えるという価値観から、観客を楽しませながらグランド整備も済ますと変わると、いつしか観客も♪YMCA♪と口ずさみ、皆一斉に振付に合わせて手を動かすようになる。
ゲームには欠かせない観客参加の時間である。
7回表終了時に観客が皆一斉に歌うTake Me Out to the Ball Game(私を野球に連れてって)もMLBには欠かせない( Seventh inning stretch;背伸びや運動をして観戦で固まった身体をほぐす)重要なイベントである。親子何代にも渡り、誰もが知っていて、誰もが唄える歌は球場全体を一体感で包み込む。応援団が仕切る日本の球場との違いは如何ともしがたい。
純粋スポーツとしてストイックに野球を追求するだけではなく、スポーツの持つ様々な側面をエンターテイメントとして掘り起こすことで、家族連れが一日中楽しめるボールパークとしてだけでなく、近年ではビジネスの商談場所としても使われるように用途開発も進んでいる。
同じベースボール/野球でも、観客を楽しませる切り口をたくさん持つのと、ただ黙々と勝敗を競うのでは、ビジネスとしての質、レベル、可能性が大きく違う。多くの人を引き付け、ビジネスの規模が大きくなることでプレーやゲームの質も高まるから、相乗効果によってビジネス、そしてマーケットも大きく成長する。
筆者は、いま、まさにこれと同様な進化が、小売業、特にSMには求められていると考えている。
<参考>
★Stew Leonard`s HP https://www.stewleonards.com/ ★横浜ハンマーヘッド HP https://www.hammerhead.co.jp/
- Stew Leonard`s YouTube
Stew Leonard`s in Farmingdale, Long Island, NY Tour (https://www.youtube.com/watch?v=OlEODkk1FfI)
Santa Visits Stew Leonard’s | Kids Learn How Food Is Made | Go Santa Go | Ep 4 (https://www.youtube.com/watch?v=h24w_QyZjQM)
Stew Leonard`s Spooktacular, Paramus NJ – Halloween 2020(https://www.youtube.com/watch?v=Axg-iwQ8_ds)
Fifteen Years in The Making: Stew Leonards’ Grand Opening in Farmingdale (https://www.youtube.com/watch?v=xf7aYlcm344)
Plenty of Farm Fresh Food at Stew Leonard’s – Update from Stew (https://www.youtube.com/watch?v=FvxFU0Woah0)