早稲田大学 大学院教授

企業の収益性を高めるための大きなポイントの1つは、コストダウンである。その有効な手段の1つが社内の業務を標準化し、効率を高めることである。
この標準化によって、ローコストオペレーションを実現している企業の1つが、衣料品販売のしまむらである。同社は、チェーンストア経営の大原則として、「標準化(Standardization)」に、「単純化(Simplification)」「専門化(Specialization)」「仕組化(Systematization)」の3つを加えた4Sを掲げ、これらの方針によって多店舗運営を合理化し、ローコストオペレーションにつなげている。具体的な標準化のポイントを挙げてみよう。まずは、店舗の建物・駐車場・広告塔・外構などのすべての建築物について、建築標準仕様を設定し、資材の標準化を図り、店舗の早期完成や建築コストの削減につなげている。また、商品の仕入は、すべて本社のバイヤーが一括して行い、大量購買によって仕入れコストを削減している。また、商品の物流についても、全国10か所にある自社運営の商品センターを機械化・自動化・高速化をベースに効率的に運営し、全国の約2200の店舗に毎日発送している。具体的には、午前中にサプライヤーから商品センターに納品をしてもらい、午後に店舗ごとに仕分けを行い、交通量の少ない夜にかけて店舗に発送し、翌日の午前中に店舗で検収を行い、同日中に売り場に陳列するという標準化した効率の良い業務フローで運営している。さらに、商品の約40%については、コストの安い海外で仕分けを行い値札もつけるという直流物流も採用している。また、店舗の運営についても、接客やレジ業務、商品陳列やディスプレイ、清掃の手順まで店舗運営に関連するすべての業務を分かりやすくマニュアル化し、標準化を進めている。また、本社の店装部が売り場のレイアウト設計や陳列什器の開発を行い、商品部が売り場の陳列・演出管理を行うことで、全店舗の売り場の標準化と単純化も進めている。ただ、エリアのブロックマネージャーが毎週現場確認を行い、店舗に応じた売り場の修正は適宜行っている。このようなさまざまな標準化の施策が、安い価格でも利益を出せるような低コストでの事業運営のベースとなっている。
一方で、数種類の定番品を継続して大量に販売していくこともコスト削減につながるといわれている。実際に、ある飲料メーカーの幹部の方から、「利益を上げるのであれば、圧倒的なシェアを持つ定番品の販売数量の増加が、最も効率が良く、効果が大きい」と聞いたことがある。やはり同じ製品を継続して大量に販売していくことは、かなり効率も上がり、いろいろな面での標準化につながり、コストの削減にもつながるのだ。その意味では、定番品を大事にし、その継続した大量販売を促進すること、またバージョンを変えた特別品を販売する場合には、プレミアム品といった位置付けにして、価格を高めに設定することでバージョン変更のコストなどを吸収し、しっかりと利益を出せるようにすることも重要だといえる。
ところで、日本企業は標準化が苦手である、という話も聞くことがある。私の知人の戦略コンサルタントは、その理由の1つとして、日本企業の強さのベースとなっている現場の強さがあだになっているのではないか、と話していた。つまり、現場の能力が高く、それぞれの状況に合わせて創意工夫をしていくという方向性が、全社ベースでの標準化を阻んでいる可能性があるというのだ。もちろん、現場が強く、それぞれの状況に合わせて創意工夫をすることは素晴らしく、顧客のニーズや現場の状況にきめ細かく対応していくことは競争優位性を確保するための1つのポイントになる。ただ、現場や顧客ニーズに合わせた対応が過度に行われてしまうと、効率を低下させ、コストアップを招いてしまう可能性がある。その意味では、顧客視点から考えて必ずしも重要ではない点は標準化を進めたり、重要な点についても標準化できることは可能な限り標準化し、全体として適度な標準化を目指していくことが望ましいように思う。実際に、標準化をベースに事業を運営しているしまむらも、現場の創意工夫の現れともいえる毎年1万件以上の改善提案が集まる「改善提案制度」をもとに、現場の意識を高め、それを上手に吸収しながら、多くの提案を検討・実験し、良いものはマニュアルに反映し、毎年更新し続けながら、ローコストオペレーションを支えている。
参考資料:(株)しまむらホームページ資料