「衣料品は、なぜ縮小し続けるのか」との質問があった・・・

ある企業の新入社員教育の場で、この企業は、小売業ではないのだが、受講生からこんな質問を受けた。「日本の衣料品の売上は、なぜ縮小し続けるのか」というものである。「コロナ禍の影響を大きく受けたのは間違いないが、本当にそれだけなのか」という素朴な疑問を持ったからというものだ。

▼総合スーパー(GMS)の衣料品担当からビジネス人生を出発した小生にとって、今でも衣料品の販売動向は気になる。それは、食料油や小麦製品の価格変化以上に気になる事もある。何故なら、バブル期の1991年には、呉服•和装品なども含めてだが、市場規模は15兆円近くあったのだ。それが、2020年の国内のアパレル市場規模は7兆5158億円(矢野経済研究所)と大幅に減少しているのだ。これは、単に衣料品に対する需要が減ったからではない。購入単価が大きく下がった結果であり、2人以上世帯の被服・履物に支出する年間金額は、家計調査年報(総務省)によると90年に28万6824円あったものが、2000年には20万6742円、そして21年は10万8751円と大幅に減少している。21年の数値こそコロナ禍の影響を受けてのものであろうが、ダウントレンドは長い期間に渡っているのだ。

▼繰り返すが、衣料品関連の家計支出の減少は、需要減退が原因ではない。供給に関しては、売上がピークであったバブル期と比較しても増加しているのであるから、問題は購入単価の大幅な減少になる。バブル経済が崩壊した後、デフレ傾向が鮮明になった時、どの業界も値下げに走った。「吉野家」の牛丼並盛は、1杯400円であったが280円に下げて世間を驚かせた。マクドナルドのハンバーガーが半額になり、百貨店で1万円近い値段のフリースを、ユニクロが1980円で売り出したのだ。まさに、低価格販売を「ユニクロ化」とニュースで取り上げられたほどである。

▼衣料品の市場縮小は、商品そのものの特性、ファストファッション化、インターネット通販やフリマアプリの活用、ライフスタイルの変化など様々の要因によるものだが、最終的には価格に行き付く感じがする。足元では、値上げラッシュへの対策が議論されているが、ユニクロが2015年に値上げした際には、客数減少が続き、売上に大きな影響を与えてしまい価格設定を戻した経緯がある。それでも、ユニクロは値上げを実施する意向であるようなので、動向に注目していきたい。

日本経済はデフレが長らく続いて来た。30年間、賃金も上昇していない。現職の小売業のバイヤーもメーカーの営業担当者も本格的な値上げ局面を経験していない。これまでとは違う商談が展開する事を願うばかりだ。

(2022・04・12)