東京工業大学非常勤講師、エム・ビィ・アイ代表
二次機能型ストアの中でもテーマパーク型ストアは、対象とするテーマを切り替えることで様々にマーケット=顧客ターゲット×オケージョンを変えることができる。
遊び要素を強調すればアミューズメント型(遊びや楽しむことにウエイトを置く)になるし、特定ジャンルに絞り込んで深く探求する形をとればキュレーション型(より専門的、トリビア的)のイメージにもなる。
今後、AI、5G、メタバース、ロボット、遠隔操作、VR・AR・MR、...等々、新たなデジタル技術やサイバー空間が加わり、サービスに使えるソース(源)もリアルからサイバー、バーチャルと豊富になるだろう。たとえ同一ジャンルであっても、世界観、企画力、ソース(源)、技術などの違いによって、提供するサービス(機能)、体験は、全く違ったものになる。二次機能型ストアが創り出す世界観、提供する様々な体験、それによって得られる満足と成長が、顧客とストアとの間に新たな関係性を形成することになる。
物の充足を目的とし、物中心に発展した20世紀型消費と二次機能型ストアが創り出す21世紀型消費では明らかに目指すモノ(目的、目標)が違う。顧客に感動を与え、顧客とともに進化、成長できる「場=機会」を提供し続けることが二次機能型ストアのミッションである。
◆美と健康のテーマパーク型ストア
美と健康の意味するところは広く、時代によって取り上げられるテーマにも流行り廃りがある。しかし、テーマの背景となる説やアプローチ方法が変わっても「いつまでも若々しく健康でありたい」という願いはいつの時代も変わることがない。人間にとっての永遠のテーマである。
そのため、古くから様々な研究がなされており、何千年もの歴史を持つ東洋医学(漢方など)、長年実証研究が行われてきた民間療法、医学・生理学・生化学など様々な分野が形成されている。
最近では、最新技術を用いた未知の分野の研究から、従来の常識を覆すような研究成果も報告されている。未だ科学的に検証・オーソライズされていない内容も多く、最新情報の解釈などにも違いが生じている。直接、人体・生命にかかわる分野だけに取り組み方は難しい。
(★NHK-BS1 「シリーズ人体Ⅱ遺伝子 特別版1 あなたの中の宝物 トレジャーDNA、特別版2 DNAのスイッチが運命を変える」によると、最新のDNA研究から様々な働きを持つDNAのスイッチがON/OFFすることで特定能力の強弱などの個体差が生じるという。このような人体・生命活動に備わるメカニズムを理解した上で対処しないと無意味な治療・投薬などが行われる可能性もある。)
美と健康については、食(素材・成分・調理法・組み合わせ・摂取の仕方)とともに、運動、睡眠、ストレスなど生活習慣との関係がよく知られているが、専門家の間でも諸説あって細かな部分では解釈・意見が分かれることも多い。
一方、一般消費者は、TVで「○○が良い」「△△が効く」といえば、すぐにそれを買いに走るように、常に安直な答えを求め、試そうとする。長続きしないのは、断片的な情報と即効性への期待があり、すぐに見切りをつけて次なる答えを探し求めるからである(また、それを促すような情報提供の仕方になっている)。
身近には多くのドラッグストア、ECが様々な商品を提供しているし、TVやSNSには無秩序に公開された過剰な情報・商品が溢れている。結局、多くの消費者が、何を信じ、何を選択したらよいのか明確な答えを見出せずに彷徨っているというのが実情であり、このような状況は如何ともしがたいものがある。
このような状況を改善するには、情報、商品・サービスを整理し、消費者が手軽に安心して活用できる仕組み、身近にあって敷居の低い機関・施設が必要になる。
現在、病気とも健康とも言えない不健康な状態やチョットした風邪のような病気は、セルフメディケーション(自分で取り組む予防・改善)が推奨されている。しかし、生活習慣病のような簡単に結果が出ない、知識と根気のいるケースでは自分一人で取り組み、継続することはなかなか難しい。
例えがチョッとズレるかもしれないが、例えばカー用品の小売店とカーピットを比べると、小売店には様々な手入れ用品や部品、アクセサリーなど様々な商品(物)が売っていても、それを買って、クルマを快適な状態に仕上げるには知識・技術を身につけてDIY(Do it Yourself;材料などを買い、自分で加工・施工をする)をする必要がある。これは結構ハードルが高く、自分でやれる人は限られる。一方、カーピットでBIY(Buy it Yourself;材料などは自分で買うが加工や工事はプロに有料で委託する)をするのであれば、だれでも取り組みやすく、結果も担保される。
そこで改めて美と健康について考えると、病院では大袈裟すぎるし、ドラッグストアで商品を買っても専門知識・技術がなければDIYは難しい(例えば目薬をさす、眉一つ引くにも正しい知識を持つ人は少ない)。カーピットのようなBIY的サービスがあればよいが、残念ながら美と健康に関してはそのようなサービスを手軽に受けられる機関・施設は存在しない。
「美と健康のテーマパーク型ストア」は、既存の病院やドラッグストアとは違い、気軽に楽しみながら美と健康についての知識・スキルが身につき、様々な体験を通して進化・成長することで望ましい状態(予防・改善)に近づける (消費者の要求を満たすことができる)「場」ということができる。
それを実現するには、従来とは異なる多様な価値観・知識・技術・ノウハウ・経験を持つ人や企業・組織・団体などがコラボレーションして複合的なサービス提供の「場」を創り上げる必要がある。
重要なのは物の充足ではなく、状況の改善・充足、成長であり、自分中心という価値観を体現するための機能的サービスである。その一つの形が 「美と健康のテーマパーク型ストア」 と考えている。
■美と健康のテーマパーク型ストアのポジション
(1) 美と健康をどう定義するか
美は健康の上に成り立つと考えれば、まず健康を前提とし、その先に美を設定することになる。
我々の状況は図表1に示すように健康、疾病(病気)、その中間にあってどちらとも判断しづらい不健康に分けてとらえることができる。
例えば、糖尿病の有病者1000万人に対し、その予備群はほぼ同数の1000万人いると推計されている。高齢化に伴い疾病予備軍=そのまま放置すると有病者になる確率の高い不健康な人は急激に増加し、セルフメディケーションが叫ばれる大きな理由ともなっている。ただし、政府が力を入れ、マスメディアがこぞって取り上げる割には決め手となる有効な仕組み、受け皿が確立されているとは言いがたい。
「生活習慣病」という言葉に象徴されるように、食、運動、睡眠、喫煙、ストレスなど生活習慣を原因とする疾病は多い。しかし、①専門家間の解釈・意見の相違、②情報過多と無秩序な情報発信、③身についた生活習慣変容の困難性などから個人で修正することはなかなか容易ではない。
腸内フローラ、免疫、血液サラサラ、食物繊維、乳酸菌、…等々、姿形を変えて次々に現れる健康キーワードは多い。しかし、あたかも別のもののように言われるそれらのキーワードも実は同じことを違う観点から言い換えているだけというケースは多く、いたずらに情報量を増やし、混乱を招く原因ともなっている。
全体の構造、メカニズム、対処の方向性を分かりやすく簡潔明瞭に整理する。また、対処方法が分かっても一人では徹底することが難しいという状況を理解し、それを克服する仕組み、実現する受け皿を確立する、という2点が必要になる。
「美」は、アンチエイジングを含めた美容(各身体部位のケア)、食・運動・睡眠など生活習慣、心身の健康・バランスなどの他、化粧・おしゃれなど「装う」といった幅広い分野が関係する(図表2)。
ニューヨークのオシャレなおばあちゃんたちが登場する人気ブログ「アドバンスト・スタイル」で注目されるようになったポジティブな高齢女性はマスコミにも大きく取り上げられ、一時期大きなブームとなった。
日本でも、高齢女性が化粧やオシャレをすると明るくポジティブになる、認知症に改善効果がみられるなど、オシャレ/メンタル/健康との間に一定の関係性が認められており(図表3)、高齢者施設などでは取り組むケースが増えている。
ただし、社会的にはそのような受け皿がなく、まだ広く一般に普及しているとは言いがたい。メタバースのようなバーチャルの世界に答えを求めることもできるのだろうが、実現するのはまだまだ先の話である。

美と健康のテーマパーク型ストアでは、「美容」「健康」に関係し、身近にあって最も重要と考えられる食、運動、美容、メンタルなど幅広い分野を状況に応じてミックスすることになるだろう。
「美容」「健康」のいずれも、悪化する時/改善する時には「食」「睡眠」「ストレス」「運動」など特定の要因と一定の関係が確認されている。改善するにはⓐ不足する要素を加えてバランスを回復する、ⓑ負の要素を提言してバランスを回復する、©要素間のバランスのとれた状態を設定・リセットして維持するなどが必要になる。
「食」をベースにして考えれば、食材(取り合わせ)、調理方法、摂取時間・タイミングなどとともに、運動や睡眠など関連する要因との関係を考慮して、いかに有効な生活習慣が確立できるかが重要になる。
よくテレビなどで紹介される食材、レシピなどのように単体・単独ではなく、「関連する要素がバランスした生活習慣がライフスタイル(orシステム)として確立、定着することが重要であり、それが美と健康のテーマパーク型ストアの最終的なGoalということになる。
生活習慣を変える行動変容には一人で取り組むのではなく、指導・サポート(サービス)する人やグループで楽しみながら取り組むことが有効であることが分かっており、そのための身近な「場」が求められている。
自分はこうして美と健康を手に入れた(良い生活習慣=ライフスタイルorシステムを身につけた)という成功ストーリーが体現できる仕組み=サービス構築、それを提供する「美と健康のテーマパーク型ストア」のような存在が必要になる。