何故、いま「リスキリング(Reskilling)」?

早稲田大学の社会人向けマーケティング講座で、㈱吉野家の前常務取締役による「不適切発言」が駆け巡った。「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」というフレーズが何度となく報道されていた。舌禍事件には違いないだろうが、言い過ぎたという印象ではなく、日頃から口にしていることなのだろう。

▼「うまい、やすい、はやい」に「心地よい」を加えることで「顧客感動満足」を実現すると言っている吉野家も泥を塗られたのだろうが、「反社会的な発言で、本来ならトップが謝罪会見を開くぐらいの内容だが、本人を解任するのと代表取締役の役員報酬の減額が発表されただけだ。企業の体質にも原因があるのかも知れない。早稲田大学も対応に追われた。早稲田大学は、社会人教育事業室を設けて様々な講座を展開している。今回の講座も「PBL(プロジェクト型学習、課題解決型学習)科目 デジタル時代のマーケティング計画策定」講座(全部で29回)で、修了者には早稲田大学から履修証明書が発行されるもの。授業料返金も含め対応しているとのことである。

▼この話題に直接関連するものではないが、今、社会人向けの教育事業が盛んだ。リスキリング(Reskilling)という語があるが、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と経済産業省は定義している。コロナ禍を契機にマーケティングやDX(Digital Transformation)を学ぼうとする人が急増している。これまでは、企業の特定の人材に任せられていた業務が、現場で働く社員にも求められ始めているのだ。従来とは異なる、新たなスキルを獲得し、そのスキルを発揮することで新たな価値を創造し始めた。その為の能力開発を目的とするのがリスキングとなるのだろう。

▼歴史的に見て、チェーンストアは、従業員教育に多くのコストをかけてきた業種のひとつである。企業内のOJT(職場内訓練)を基本に、階層別研修や接客訓練などのOff-JT(職場外研修)の機会を設けてやってきた。これまでは、今ある仕事を行いながらやり方を覚え、スキルを身に付けてもらうことが中心の教育訓練中心で良かったのだが、これからは社内に存在しない仕事や、今はまだできる人がいない仕事をするためのスキルをプラスして身につけてもらう必要が出て来ている。教育の仕組みづくりも、これまでのOJT中心のそれ以上にドラスティックな考え方が求められ始めている。

学び直しの機会を与え、新たな価値創造のための武器を取得すること、異なる領域や仕事で活躍できるようにすることで、組織の足腰を強めることが大事であり、既に他の業種では、中間管理層を中心に自らに投資をし、自ら学ぶ姿勢が高まっているようだ。

(2022・04・22)