学習院大学 経済学部教授

コロナ禍対応の価格戦略は大きく2つに分けられよう。1つは小売の業態別価格戦略であり、もう1つは新しい潮流ともいえるダイナミック・プライシング(以下DP)とサブスクリプション(SS)の隆盛である。小売の業態別価格戦略は、以前からあるが、所得階層に応じた価格戦略であり、コロナ禍により所得格差が一層拡大したため、この傾向は増大しており、前回論じたとおりである。
もう1つのDPとSSの隆盛については以下のような背景が考えられる。原材料費や物流費の高騰により、企業の利益は減少し、短期的な利益拡大の必要が生じた。企業は製品・サービスの値上げで利益を補うが、通常、値上げで売上数量は減り、再び企業の利益を圧迫し、再値上げという負の無限ループに陥る危険性が生じてきている。この負のループから短期的に抜け出す手段がDPであり、資金的にゆとりある企業にとっての長期的な方法がSSである。DPはもともと飛行機運賃のように需給調整手段として用いられたが、経済的にゆとりのある消費者層から高い客単価で利益を上げ、低価格志向の消費者層は閑散期に回ってもらい、顧客数で利益を上げようというものだ。またDPには顧客属性の違いで顧客ごとに価格を変えるという方法も含まれている。他方、サブスクリプションは従来から新聞購読などがあったが、音楽や動画配信サービスなどデジタル材を中心に見放題・聞き放題というような追加費用の発生しにくい放題サービスから始まり、外食、美容サービス、乗用車にまで幅広く広がってきている。この根底には若者層を中心とするシェアリング・エコノミーの普及やECの成長、データベースの充実化などがある。DPにおいてもECやデータベースの充実化は同様であり、AIによる自動価格決定アルゴリズムの発展が前提となっている。
しかしながら、いいことづくめではなく DPにはAIによる極端に高い価格の提示で顧客の反発を招く危険性があり、現在この対応策が課題となっている。SSにおいては利益が出るまでの投資が大きく、もともとの資金的なゆとりが必要となる。
価格戦略としてどちらに軍配が上がるかは難しいが、これからは両価格戦略混合のハイブリッド・プライシングが登場してくるだろう。繁忙期と閑散期(時間であれ季節であれ)で異なったSSの価格をつけることや消費者属性に応じてSSの価格に変化をつけるなどだ。
なお前回述べたように、このSSは関係性マーケティングと深く結びつき、顧客接点を大幅に増やし、小売による超ドミナント化やデータベース活用と極めて相性が良い。それはSSが長期継続的な関係を顧客と持つことより多方面で利益をあげる価格戦略だからである。このハイブリッド・プライシングは今後、企業の利益に大きな影響を与えるだろう。