『3 急激な環境変化への対応 ―強みを活かせる適度な多角化の勧め―』 西山茂先生

早稲田大学大学院 教授

ここ数年、コロナの感染拡大、デジタル化、カーボンニュートラルへの動きなど、大きな環境変化が起こっている。このような変化は、社会、業界、また個々の企業に大小さまざまな影響を与える。このような状況に対応していくためにはどうしたら良いのだろうか。

今回は、デジタル化の中で祖業である写真フィルム事業が急激に縮小するという大きな環境変化に見舞われ、それを乗り越えた富士フィルムと、コロナの感染拡大の中で、一部の事業が大きな減収減益に陥ったものの、グループ全体としては業績を維持したオムロンを事例に、大きな環境変化への対応策を考えてみたい。

富士フィルムは、デジタル化によって従来の写真フィルム事業が大きく縮小する中で、複写機事業の子会社化、デジタルカメラ事業の育成、医薬品事業や化粧品事業への進出などによって、見事に業態転換を図り、業績を維持し拡大させている。その当時、同社の経営トップであった古森重隆氏は、その著書の中で、競合企業である米国のコダック社が2011年1月に破綻したのに対し、富士フィルムがその危機を乗り越えた理由の1つとして、業界リーダーであったコダックが本業の写真フィルム事業を大事にしすぎて多角化意欲が少なかったのに対して、チャレンジャーであった富士フィルムは多角化により積極的であり、多角化の幅と深さの面で大きく上回っていた点を挙げている。ただ、富士フィルムの新しい事業領域への多角化は、単なる闇雲なものではなく、「勝ち続けられるか」という視点をもとに、基盤技術や基礎技術の活用可能性を基にした技術戦略や製品戦略という観点から厳密に選別しながら行っていたと説明している。

一方で、オムロンは、コロナ感染拡大の中で、その影響を1年間フルに受けた2021年3月期の業績が、その影響をほとんど受けていない2020年3月期と比較して、売上は3.3%の減収となったものの、営業利益は14.1%の増益を確保するという結果を残している。具体的には、4つの事業分野のうち、交通関連の社会システム事業は苦戦したものの、ヘルスケアは好調に推移するなど、4つがそれぞれ業績を補い合い、安定した業績を確保したのである。この背景には、オムロンの山田社長が掲げる「選択と分散」という方針がある。これは、企業理念に基づいて、自分たちのコア技術が活きる事業を明確にする「選択」と、特定の事業や顧客、国だけに依存せずに、複数の事業を確立する「分散」の2つをベースにした方針である。これが、コロナ感染拡大という逆風の中でのオムロンの業績維持につながっている。

この2つの事例は、大きな環境変化の中でも業績を維持していくためには、適度な多角化を行っていくことが望ましいことを示唆している。一般的に、多角化は経営効率を下げ、コングロマリットディスカウントと言われるように、外部からの評価も高まらないとされる。しかし、大きな環境変化がある前提の中では、中核事業に過度に依存し、それ以外に事業の柱がない状態は非常にリスクがあるともいえる。その意味では、適度な多角化を意識して事業展開を図っていくことは選択肢の1つではないだろうか。ただ、その中で重要なポイントは、自社の強みをベースにした厳密な選別であり選択である。

参考文献

古森重隆(2013)『魂の経営』東洋経済新報社

オムロン(株)統合レポート2020