『ヒントを得るためのデータ活用(3):結果に重要ではない変数に着目する!?』 豊田裕貴先生

法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科・教授

前回まで、データから「当たり前な部分」と「当たり前ではない部分」とにわけて、当たり前ではない部分からヒントを得るというデータの見方について解説しました。今回は変数間の関係に着目し、結果に重要ではない変数に着目するという普通とは異なるデータの見方を解説します。

・顧客満足データを分析すると戦略ポイントが見える!?

BtoCの分野では、しばしば顧客満足度を把握するために、CS調査が実施されます。たとえば、スーパーマーケットで以下のようなアンケートでデータが取得され、活用されます(図1)。

ここで、満足が5点、不満が0点(わからないは「欠損値」)としてデータを記録し、集計したとします。以下の表1は平均値を計算しまとめたものです。

もしこの結果のみからどこに着目して戦略・戦術を立てるかといえば、おそらく点数が低い項目を「改善すべき点」、点数が高い項目を「強みとして強化すべき点」といった具合にはんだんするでしょう。ただし、これでは十分な分析とはいえません。それは、これらの各項目(8個)の満足度が改善されたとして、何が起きるか(ゴール)について明確にしていないこと、そしてそのゴールについて、どの項目の影響が大きいといえるのかを加味していないためです。

ここでは詳細は割愛しますが、たとえば、今回の目的が「再来店意向を高める」であったとした場合、この8個の項目について、「また来たくなるお店を選ぶとき、それぞれの項目はどれくらい重要だと考えますか」と顧客(回答者)に重要度を聞いて、上記の結果に付与すると以下のような表2を得ることになります。

この結果を見やすくするために、以下の図2のように散布図を描いてみます。横軸は重要度、縦軸は満足度を表しています。皆さんは、どの項目に着目して戦略戦術を考えるでしょうか。

多くの場合、重要である右側にあり、かつ満足度が低い項目(右下)を「要改善点」として、もしくは満足度か高い項目(右上)を「強み」と判断して活用すると思います。もちろんこれが基本とはなりますが、ここで異なる視点での検討を加えておきましょう。

・重要な変数をあえてはずしてヒントを得る!?

図3は図2を3の目盛りで4分割した図で、AからDの4つの象限に分けてあります。ここでは、目盛りを3で分割しているため、すべての項目が右半分にありますが、縦軸・横軸をそれぞれの平均点(8個の平均点の平均点)で区切れば、データはこれら4象限に散らばります。

ここで重要なのは、どの領域に着目するかでマーケティングの視点が異なるという点です。

右半分(BかD)への着目は、顧客がすでに「重要」と感じている項目への着目となります。ということは、マーケティング的には「ニーズ対応型」の視点になります。ただしこれらの項目への着目のみで、有効なマーケティングへのヒントが得られるかは疑問です。これらの項目は店舗にとってもすでに理解できているポイントであることが多いためです。

一方左半分(AかC)は、顧客は未だ「重要」と感じていないか、過去には重要と感じていたが今は重要と感じていない項目ということになります。前者であれば潜在ニーズの可能性が、後者であれば視点再起しうるニーズの可能性があるということになります。マーケティング的にいえば、「ニーズ提案(喚起)型」という視点になります。

ここで左半分に着目するとは、データを得た時点ではゴールに対して重要ではないという変数(項目)へ着目するということです。データ分析の重要な視点は、「あくまでデータを得た時点での構造を明らかにしているだけで、それを将来にわたって固定的なものであると判断するか否かは利用者の判断による」という点です。このように考えると、その時点で重要なことをあえて外して考えるというデータからヒントを得る思考に大切であることがわかります。

重要ではない変数に着目する!

そこで、図3には、平均値に標準偏差を足した補助線と、引いた補助線を追記してみました。