リスキリング(re-skilling)を考える・・・

日本経済が長期停滞から抜け出すには、従業員の学び直しによる生産性向上が決定的に必要の声が高まっている。岸田首相も外遊先の英国での講演の中で、人への投資の重要性を指摘し「リスキリング(re-skilling)に力を入れる」と力説している。リスキリングとは、デジタル技術の進展に伴って新しく生まれた「これまで誰も行ったことがない」業務に対応するスキルを身につけるために、人材の再教育や再開発を行う取り組みを指すものになる。

▼小売業もDX(Digital Transformation)化により、さまざまな業務プロセスが自動化され始めている。業務のプロセス自体が大きく変わるなかで、これまでに存在しなかった仕事や課題に対処できる人材育成が企業に求められているはずだ。そして、コロナ禍による商習慣、働き方の変化も、それに適応したスキルを身につける必要性が高まっているはずだ。このように、DXの加速と事業のデジタル化が進む現代において、次世代に対応できる人材を育成するリスキリングを行うことは必須といえるはずなのだ。

▼取り組むにあたり、いくつかの確認をしておきたい。リスキリングはOJTの延長線上にはないということだ。OJTが「連続系」の能力開発であり、職場での実践を通じて、今ある仕事をこなすために必要なスキルや業務のやり方を習得するものだが、リスキリングは、「非連続系」の能力開発になる。存在しなかった仕事、未だ出来る人がいない仕事を実行するに必要なスキルを獲得するために実施されるものになる。そう言うと、デジタル人材・IT人材の領域の育成と思われがちだが、「デジタル技術等を活用して価値を生み出していくために、全ビジネスプロセスを見直していく取り組み」といえるものだ。そして、汎用的なデジタルスキルは業種を問わず共通であることも多いため、外部コンテンツの活用が効率的といえる。

▼海外の企業での成功例は、企業の底流には「リスキリングは業務の一部」という発想があるという。国と企業、労働組合が連携し、時短を取得してリスキリングに取り組む企業に対し、政府が金銭的な支援を実施する国もある。

日本の企業の経営者は、よく「折角、支援しスキルを身に付けた従業員が転職してしまっては元も子もない」という声を耳にする。残念なことだが、今の労働環境が理解されて無いようで本末転倒に思える。これからは人材の流動化する動きは止められない。ましてやデジタル人材はそうだ。むしろ、DXを進め、やりがいと成長機会がみえる企業になれば、中途採用でよい人材が入ってくるはずだと思う。

労働生産性向上が必至の時代を迎え、今後も加速していくデジタル技術の世界において、価値を生み出し続けられる次世代の従業員を育成することは、企業にとって重要な課題といえよう。

(2022・05・23)