『スーパーマーケットにおけるダイナミック・プライシングとサブスクリプション』上田隆穂先生

学習院大学 経済学部教授

前回ダイナミック・プライシング(DP)とサブスクリプション(SS)のハイブリッド・プライシング登場の可能性について述べた。そしてSSが小売による関係性重視の超ドミナント戦略と極めて相性がいいということも述べた。では小売、特にスーパーマーケットにおける両者の可能性はどうなのであろうか。ここで小売ではないが1つの事例を挙げてみたい。もう10数年前の事例となるのだが、フィットネスクラブの大手テイップネスは業界として異色のプライシングを実施した。それは会員が月々払う会費を従来の半分以下に抑え、1回ごとに520円を支払うというものだった。仕事などの都合でなかなか来られない会員に好評を博したプライシングだった。このプライシングは明らかに部分SSと言えよう。

顧客との関係性重視という点から小売も、程度はかなり異なるがコストコや生協のように顧客の会員化をはかり、優良顧客に限定し、同様の実験を行う価値は高い。つまり、月々あるいは半年などの会費を取り、1回ごとの買物料金を割り引くという仕組みである。ここで問題となるのは会費の額と買物料金の割引率だ。会費を高くしすぎ、1回ごとの買物料金割引を大きくしすぎると顧客による再販売リスクが生じる。これを防ぐ程度の会費の額と1回ごとの買物料金割引率は多くのシミュレーションを実施して決めることが必要になるだろう。一旦この仕組みが回りだすと、顧客の固定化は極めて堅牢なものとなり、小売の利益となるだろう。そして同様の競争が生じることへの備えとして、顧客離れを防ぐためにプライシング以外の関係性強化の工夫が重要となる。この仕組みを円滑化しやすいのは第2回で述べた、地域の顧客を囲い込むバローの超ドミナント戦略の実施である。自前で実行するのが大変な場合には提携という手もあろう。

またハイブリッド・プライシングというからにはもちろんDPの要素をこれに入れ込むことが有用である。具体的な方法としては、例えば何かの機会をとらえて買物割引率をダイナミックに変動させることや年齢(例えばシニアデー)・性別などに応じて変動させることも可能だ。またドバイのイケアのように遠距離から訪問する顧客には距離割引を適用すれば商圏も広がることになる。これらの多様な工夫でハイブリッド・プライシングを小売が実行すれば大変面白いプライシングの世界が生じることになる。もちろん利益は拡大する。