お鮨屋のオーナーに教えられ・・・

コロナ禍は、旅行や航空業界、百貨店業界には大きな打撃を与えたが、物流業界やドラッグストア、ホームセンター業界には追い風となった。スーパーマーケット業界も特需にも似た恩恵を受けたことになる。“明”と“暗”の格差が特徴的であった。競争の激化に加え原価・コストが高騰してきた。消費も変化している。消費も「生活充足」に足を移していたが、そろそろ、「生活充実」のウェートが高まってきた時の準備が大事になって来ると思われる。

▼この期間にUbeL Eatsに代表される新しい料理の配達代行サービスが登場して来た。スマホアプリを駆使し、出前のための人手不足の業者と外出できない消費者に解決策を提供したことは確かである。欧米ほど厳しいロックダウンは行われなかったが、飲食店に対する営業時間規制や酒類提供の自粛要請は続けられた。外食市場の売上げは急減し、セフルサービスのレストラン、パブや居酒屋は売上げの50%減という厳しい状況に直面した。この中で、テイクアウトやデリバリー需要に適応したファストフードの落ち込みは小幅に留まっている。久しぶりに訪れたホテルに出店している飲食店オーナーは、この動きを「料理とは何か?」という問いに悩み続けたと話してくれた。

▼出来立ての料理が温度管理された容器で一定の時間内に届けられても、店舗で料理を提供する際の雰囲気は伝えられない。料理の価値は、素材と調理技術を核とし、盛り付けや食器、カウンターの飾り、言葉遣いや態度、照明などのいくつもの要素で構成されている。小売業のリアル店舗でも同様だが、それ以上に、五感を刺激する経験価値が料理のおいしさなのだ。配達代行サービスは、調理と料理提供の過程を時間的にも空間的にも分解させた。配達代行サービスを使ったのでは、これまでと同じ顧客満足を実現することが出来ないのではないかという悩みであったらしい。

▼もちろん、この配達代行サービスを需要開拓手段として積極的に取り組んだ事業者を決して否定するものではないのだが、料理は“モノ”ではないという立場に立つと、コロナ渦が、“コト”の提供を標榜するビジネスに甚大な影響を与えたことがよく分かる。パンデミック以後のわれわれ業界のあり方を考える貴重な話でもあった。

われわれを取り巻く課題に対しては、受け身で対応するのでなく、前向きにかつ創造的に対応していく知恵と工夫が必要な時が来ている。大切な食を担う産業として、明らかにじり貧の傾向にあるこの市場をいかに活性化し成長させていくかが期待されているはずだ。改めて「日本の食」の持つ意味を考える機会にしなくてはと思った。

(2022・06・01)