『18.マーチャンダイジング(以下MD)の標準システムモデル』 小松崎雅晴先生

芝浦工業大学 非常勤講師、エム・ビィ・アイ代表

◆標準モデル

ずいぶん前になるが、大手小売業のシステム開発を担当する大手メーカー(SIer*)のマネジャーに次のような質問をしたことがある。

小売業は、基本的に売価、原価、売価変更、返品・値引き、売上、仕入、棚卸ロス、数量、時間という情報をベースにしており(仕入から販売までにあるデータはこれしかない)、他の数値(指数など)は、これらのデータを元に算出しているにすぎない。いろいろな企業、業態はあるが、基本的に活動内容は商品を仕入れて販売し、目標予算を達成するという点でみな同じであるから、活動状況を把握し、改善するために用いる情報も基本的に同じでよいはずである。そう考えれば取扱商品(特性)の違いがあったとしても、全ての企業、業態が共通で使える標準的なシステムが一つあればよいのはないか。

この問いに対する彼の返答は、大きく2つであった。

一つは企業によって要求は千差万別であり、しかも要求定義が明確でない。標準的なシステムに業務の仕組みを合わせるのではなく、現在ある業務実態に合わせて情報システムを開発しようとする。しかも使うか否か(頻度、有効性も)に関係なく色々なことができる(より多くの画面・帳票が出せる)システムを要求するから、結果として全ての案件がカスタマイズになる。

そして、もう一つは、カスタマイズしないと、(売上的に)これだけの規模、クオリティの業界が維持できないという、ある意味業界人としての本音であった。

現在は、サーバーやシステムを自前で持つのではなく、クラウドに移行し、標準パッケージを利用する企業も増えているが、その多くが項目や期間を指定してリクエストしないとデータを取り出すことができない。

そのため、営業スタッフであっても、取り出し方を知らない、どんなデータが取り出せるか(取り出せること自体も)知らない、それ以前にどんなデータを使えばよいか分からない、…など、データ活用とは程遠い状況にある企業も珍しくない。

昔、女性に化粧の仕方をキチンと習ったことがあるかと聞いたことがある。ほぼ全員が正式に習ったことはなく、何となく自己流でやっているから正しいかどうかは分からないと言う。プロの手にかかれば眉の引き方ひとつで見違えるように変わるが....。化粧品は何処でもたくさん売っているが、化粧の仕方は未開のままである。

そう考えると、多額の投資が必要になるシステム、現場のデータ活用も似たような状況にあると思えてくる。データを取り出しても使えるように加工するには多くの手間と時間、Excelなどの知識・スキルが必要だが現場にはそのような専門組織も、教育の機会も、時間的余裕もない。データが活用できる環境にないことは大きな課題である。

別の大手メーカー(SIer)が開発する小売業向けシステムのレビュー(部内評価)にアドバイザーとして参加したことがある。そこではシステムの頭にExcelのピボットテーブルのような表頭、表側の項目を自由に組み替えられる画面を設定していた。使用する人は、自分で好きなように項目(フォーマット)を組み合わせて使うことになる。

ただし、「何でもできるから自由に…」というのは、裏を返せば、使う部署・業務・頻度別に、どのようなフォーマット(データ項目の種類・並び方)・グラフが必要か特定できないため、それを使用する人に丸投げしているとも言える。

小売業で日常的に使うフォーマット(実施計画、中間チェック&修正は一つのフォーマット)は、バイヤー、店長、売場担当と職種・職位が変わっても大きく変わることはない。違うのは全社、店、部門といった集計単位(&期間)であるから、組織内の共通言語としての基本フォーマットは限定できる(いたずらにフォーマットの種類を増やすと組織内の共通言語がなくなり、システムも人も処理に手間と時間を取られて煩雑になる)。

本来、「これさえあれば十分」と限定できることこそがノウハウであり、システムの価値であるはずだが、何故か小売業も開発メーカー(SIer)も画面・帳票が多い方がよいとしている。メーカーは、画面・帳票の数が多くないと小売業相手には価格が通らないと言い、小売業は使うか否かに関係なく画面・帳票が多いことに価値を見出している。システムの価格が使いやすさ・有効性などの価値ではなく、プログラムの本数(量)で決まっているうちは、いつまで経っても使いやすいシステムの開発は難しい。

システム開発のシーンもいくつか見てきたが、問題は全ての部署で毎日使うフォーマットも、いつ、誰が、どんな時に使うのかも分からない画面・帳票も同等に扱ってしまうことだろう。システム開発は机上論の標準と業務実態+思い付きの組み合わせ、でも業務実態はそのままという矛盾が開発(実際の使用も)を難しくする。多くの意見を聞くことも大切だか、全てを取り入れれば開発期間・コストは膨らみ、複雑で使いにくく、メンテナンスしにくい化け物のようなシステムが出来上がる。実際にこのようなシステムをつくってしまった企業も見てきたが、その後10年以上も対応に追われ、その間、周囲が進歩していてもそこから抜け出せない。色々な面で何十年も遅れてしまう。

コンサルティングでは様々な業務システムを対象とするが、そこで基本となるのがFDP(Format、Data、Procedure)である。

必要なデータ項目が漏れなく、使いやすく(処理する順に)並んだフォーマット(F)、用いるデータ(D)、データ処理の手続き(P)=業務である。

フォーマットを業務の流れ(工程)に従って並べると、個々の業務のアウトプットは次の業務のインプットになるように整理される。業務に用いるデータ・情報(インプット)、その処理・検討の仕方、アウトプット(目的とする成果物)が明確になれば業務の骨格が固まる。さらに業務(PDCAサイクル)で問題発見、改善の方向が容易に確認でき、対処の仕方までがワンセットで整理されれば、初心者にも分かりやすい。(目的=手段、原因=結果で系列化)

図表1 は、売場の健康診断ともいえる数値の組み合わせを売上、粗利、在庫に絞って簡略化し、パターン分けしたものである。細々とした数値の字面を見るよりは、まずは大枠で問題のパターンを特定し、想定される状況から次に確認すべきデータ・売場の状況、検討する内容、対応策までが分かれば、データ、売場、業務が一体化する。

売場で起こる問題のメカニズムはある程度パターンが決まっている。それを定型フォーマットに整理すれば業務は安定し、標準化が進む。しかも仕組みを踏襲することで、知らず知らずのうちにスタッフの能力を高めるOJTにもなり、組織のクオリティを高める。

問題は、使えない情報システム(データ)とその背景にある考え方(使う人が自由にやればよい、データはたくさんある方が良い)、設計思想(何でもできると限定しない・できない)であり、そのことに気づかずに放置している状況である。

デジタル化、データ活用が叫ばれる時代に対応するには、根本的な見直しが必要である。

◆MDシステムモデル

ここで紹介するMDシステムモデルは、実際にGMS*、SM*、HC*、Dg.S*、CVS*、家電量販など小売主要業態の他、レンタルビデオ店や飲食店でもコンサルティングで成果を上げている。冒頭に問題提起したように、業種業態(取扱商品)が違っても基本的な業務プロセス、使用データ(フォーマット)、手法は大きく変わらない。

実際に、月次をベースにしていたGMSや商品サイクルが短いからと3か月でしか見ていなかったCVSが52週販売計画に切り替え、企業全体がベースとして用いるデータそのものを切り替えている。

標準的な仕組みに実態を合わせるメリットが理解できれば、自己流よりもはるかに簡便で客観的かつ精度の高いシステムへ切り替えることができる。

図表2は、MD(小売企業の営業活動)の全体イメージを整理したものである。

①活動は、図表のマトリックス MDマネジメント・サイクルに沿って行う。②目標設定から戦略立案・施策策定、...と具体的になるに従って単位・期間は細かくなり、実施した結果は遡って統合されて評価・フィードバックされる。③単位が細かくなるに従い金額データは数量データに変換され、実施後に結果は遡って金額データで集計される。④金額データと数量データは商品レベル(中分類~アイテム・SKU)で相互に変換される。商品を数量データで把握することで具体的な売場計画(レイアウト、フェイシング)、作業計画が可能になる。⑤数値目標(金額データ)は商品(金額データ → 数量データ)に落とし込まれ、目標を達成するための売場づくり、それに必要な作業というように目的=手段の関係で整理される。目標達成度合いは手段の設定、実施レベル、および元々の目標設定の仕方に問題があると考えられるから、中間チェックで確認しながら修正する。

具体的な実施内容は図表3に示すように、マスター計画となる52週販売計画に基づいて商品構成、売場展開(フェイススケジュール)、作業計画へ落とし込み、OTB(Open To Buy)で進捗状況を確認しながら売上と在庫のバランスを仕入によってコントロールする。

日常業務(ルーチン)では、52週販売計画をベースに進捗状況を確認することになる(問題発見)。OTBでコントロールするのは金額、数量とも時系列での売上と在庫のバランスであり、具体的な売場展開はフェイススケジュール(販売計画に基づく売場展開の時系列計画)、商品構成はクラシフィケーションマトリックスを用いる。

フェイススケジュールでは、レイアウト、展開什器(システム什器、エンド、平台など)、フェイスの拡縮などをOTB(数量データ)と連携して計画する(例えば販売計画数量は最大陳列量×回転数であるから販売計画と売場展開の整合性を確認する)。

商品構成はC-Cマトリックス(Classification × Classification)とC-P(Classification × Price-line)マトリックスで確認するが(*Classificationは用途・機能、素材、サイズ、容量など、お客が商品選択に用いる商品特性)、商品構成分析に用いるClassification(商品特性)の情報は、JANコード=商品マスターが持っていないため、手作業での集計が必要になる。あらかじめExcelなどで対応表などを用意する必要がある。

52週販売計画で確認する売上・粗利の進捗状況(目標達成度合いの良し悪し)は、OTB、フェイススケジュール、クラシフィケーションマトリックスの中に具体的な要因と修正の方向性を見出すことができる。

商品を販売し、効率よく収益を上げるには、精度の高い戦略と計画/実施/統制が必要になる。小売業の場合、詳細計画通りにいかないケースは多く、特に実績を確認しながらタイムリーな修正、コントロールが重要になる。

仕組みもそのような観点から組み立てる必要がある。

一部のフォーマットサンプルも掲載したが、いずれにせよ、標準的なシステムモデルによって、データ(数値)、商品や売場づくりなどを含む売場実態、業務・作業を一元化することがデータ活用において最重要課題になることは確かである。

SIerSystem Integrator(システムインテグレーター)顧客(クライアント)の要望に応じて、ソフトウェアの設計・運用、コンサルティングなどの仕事を請け負う企業

 GMS総合スーパー、SM;食品スーパー、HC;ホームセンター、Dg.S;ドラッグストア、CVS;コンビニエンスストア