今回の農産物インフレは、次元の異なる非常事態だ・・・

消費者庁は21日、伊藤明子長官が退任し、後任に新井ゆたか農林水産審議官を充てるなどの幹部人事を発表し、7月1日付で発令するとあった。この新井ゆたか長官は、農林水産省の次官級ポストに初めて就いた女性で、18年食料産業局長、21年農水審議官を務めていた。コーネル大学RMPジャパンのプログラムにご公務多忙の中、何度もご出講頂いている。ますますのご活躍をお祈りしたい。また、ご出講をお願いできることを願っている。

▼一昨日(23日)の日経新聞「経済教室」欄に、こちらも、コーネル大学RMPジャパンにご出講いただいている資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫先生が『農産物インフレ 出口見えず』との論文が掲載されていた。そこには、穀物などの1次産品は、価格が大幅に変動しても需要・供給量ともに直ちに柔軟な変化ができない。ゆえに、わずかな需給バランスの崩れに対し価格が大幅に変動することから、投機の対象となる。今回のロシアによるウクライナ侵攻を受け、シカゴ穀物市場では小麦先物価格(期近)が14年ぶりに最高値を更新、大豆、トウモロコシも連れ高となった。ロシアおよびウクライナ産小麦の生産・輸出が戦禍により激減すれば、飢餓人口が急増し、世界は食料危機に陥るとの悲観論も広がっているとある。

▼一方、世界の穀物在庫は、8億トン弱と過去最高水準に積み上がっているという。しかし、5億トンは中国の在庫で、中国を除く世界の穀物在庫量は安心できる水準ではないとある。

中国は、国家食料備蓄政策として、農家利益、食料市場安定、国家食料安全を打ち出して来た。足元の5億トンという備蓄レベルは、中国国内だけではなく、食料不足にあえぐ周辺諸国への食料援助も見据えた数字なのかもしれない。中国主導による新たな「食料を武器」にする企てなのかも知れない。

▼ロシアに依存する肥料原料調達にも懸念が残る。高度にシステム化された大規模な近代農業では、化学肥料を手当てできなければ、減収は避けられない。とりわけ肥料原料の8割以上を輸入に依存するブラジル農業にとって打撃になる。また欧州の農業は、農薬の多くをロシアからの輸入に頼っている。化学肥料原料のほぼ全量を輸入に依存している日本も心配だ。

従来とは次元の異なる非常事態だ。今回の農産物インフレは、需要の拡大に加え、サプライチェーンの分断、気候危機に対応した脱炭素の潮流などの複合的要因を背景としている。さらに地政学リスクが加わっている。グローバル化の下で経済合理性だけを考えて、サプライチェーンを拡大してきたことの脆弱性が浮き彫りになった格好で、食料危機の出口はなかなか見えてこない。国は、安い高いの物価対応だけでなく、出口までの道筋を示して欲しいものだ。

(2022・06・25)