これから、小売業の課題は「価格高騰」と「コストダウン」への対応になる。この高騰する要因が、企業努力では克服出来ない不可抗力に近いところにあるのが最大の問題だ。従って、これまでの企業活動を維持するだけで、結果的に「コストアップ」に繋がってしまうことになる。今までと違うことをやる、または今やっていることを削減するしか、コストダウンを実現することは出来ない。
▼これまでも、ローコストオペレーションの実現を目指して努力を重ねてきたはずだ。更なる努力目標を掲げたところで効果に繋がるとも思えない。日本のチェーンストアの悪しき慣習だったかも知れない「とにかく頑張る」、「とにかく努力する」では、効果が出ないのだ。企業戦略とそれに基づく組織全体の見直しをすることからしかコストダウンは実現しない。朝礼のたびに、会議のたびに「コストダウン」の大号令をかける「精神論」での実現はムリな話になっている。
▼(株)島田研究室の島田陽介氏は、Amazonは、既存店舗流通業からは生まれなかったはず、セルフ・レジや無人レジは、レジ係の提案から生まれたものではないと例示した上で、コストダウンも、普通「当事者」からは出てこないと話す。コストダウンには励んでも、「いま自分がやっている仕事」を、全面否定する人はいない。自分の「組織」「ポジション」「仕事」を維持した上で、その仕事それ自体は継続の大前提で、どうコストダウンするかに取り組むからである。従って「努力目標」として企業全体で考えるのではなく、トップ直属の「タスクフォース」で考えるべきテーマだと提案している。
▼その上で、抜本的なコストダウンを実現するためには、全組織部門・任務について、「いまやっていることが、本当に必要不可欠か」見直す必要が出てくる。その手法は現状の経営から、何かを「引き算」で考えるのではなく、改めてわが社にとって「必要不可なものは、何であるか」を検討し、順に「足し算」で考え直し、必要不可欠な任務にだけ集中するという発想で取り組むことが大事としている。
「チェーン理論」が導入されるまで、小売業の世界には、「組織」とか「生産性」という概念は存在しなかった。それまでの商訓、努力、真心といった曖昧な精神論、心構え論から論理的な「組織」、「生産性」への発想転換が可能になったように、新しいわが社の理論が必要な時を迎えている。
(2022・07・09)