「収益認識会計基準の変更」について・・・

決算報告書に「会計基準の変更により昨年対比の数値をブランクにする」旨の説明が添えられているケースが多くなっている。言うまでもないが、「収益認識会計基準の変更」のことだ。2021年4月1日以降開始事業年度から、収益認識に関する会計基準(収益認識会計基準)が適用開始となった。3月決算企業は、今期から適用されることになる。早期適用(19年4月~)も可能なのだが、実際に早期適用を行った企業は約30社程だった。

▼従来、売上の認識は実現主義にしたがって行われて来た。この実現主義とは、専門的な用語使いになるが、「財貨の移転またはサービスの提供の完了」と「これらに対する対価(現金または現金同等物)の成立」の2要件を満たした時点で売上を計上する考え方になる。小売業の取引はシンプルで、商品の引き渡しと同時にお客さまから対価としての現金または現金同等物(例:クレジットカード、商品券)を受取るケースが殆どであり、その時点で実現主義の要件を満たすので問題はないのだが、実際のビジネスでは取引や契約が複雑な場合も多く、実現主義の要件を満たしているかどうかの判断が難しいケースも多かったようだ。

▼収益認識会計基準の変更は、事業や取引によっては売上の「計上金額」、「計上時期」に変化が生じることになる。計上金額変化の典型例が「受託販売」になる。受託販売は消化仕入とも呼ばれ、百貨店などで、顧客に販売した時点で売上計上し、同時に、メーカーからの仕入計上を行う取引になる。収益認識会計基準における受託販売の会計処理は、国際財務報告基準(IFRS)と同様なので、影響という面で見ると、J・フロントリテイリングがIFRSを任意適用しているが、適用初年度における百貨店事業の売上高が約6500億円減少(減少率約60%)するほどの影響があった。これは、70,000円で仕入れた商品を100,000円で売上げると、損益計算書上の売上100,000円だが、収益認識会計基準では、この受託販売(売上仕入)による売上は30,000円となる。取引における百貨店の機能は、メーカーと顧客の仲介機能であり、百貨店が創出した新たな経済的価値は30,000円という考え方によるものだ。もちろん、利益の額は変化しないので利益率は改善することになるのだが。

▼これ以外にも、収益認識会計基準の変更により、返品権付販売や手数料ビジネス、リベート、酒類メーカー(酒税)、有償支給取引(材料等)など計上金額に影響あるものが多々挙げられている。また、売上計上の時点が変わる事例も多くあり、典型例が「製品と保守サービスのセット販売」のケースだ。

日本では、1949年に企業会計原則が公示された以降、実現主義の原則に従い、それぞれの企業が、それぞれのタイミングで売上計上を行って来た。ただ、投資を呼び込むという観点では、商品の出荷時に売上を計上するA社と、商品が納品された段階で売上を計上するB社があるのでは、業績を正確に評価・比較することはできない。投資家としても、比較検討することが難しい。それを是正するねらいで制定されたのが今回の新収益認識基準になる。大企業は強制適用、中小企業は任意適用となっているが、取引先との関係上、知識が必要になることもある。押さえるべき知識と考える。

(2022・10・10)