顧客の「体験実感」を積み重ねる・・・

「店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる」。これは、倉本長治氏の言葉だ。ファーストリテイリング会長兼CEO 柳井正氏も、「座右の銘」はこれ以外ないと言っている。柳井氏が、この言葉に出合ったのは「ユニクロ」を開業した1984年より前のことで、倉本長治氏が創刊した「商業界」を読み、見つけたという。倉本長治は出版社「商業界」で主幹として筆を執り、「商業界ゼミナール」を主催した。その功績から「日本商業の父」「昭和の石田梅岩」と呼ばれている。

▼今日は、倉本長治氏の功績に関する事ではない。店は客のためにある――。のフレーズにある「客のため」の単語になる。決して「お客さまのため」とは言っていないのだ。前出の島田研究室の島田陽介氏は、「もっともらしく敬語を使うのは、論理を安手の精神主義ですり替えることでしかない」と言い切り、「客」とは、「カスタマー」で、「物理的に繰り返し何度も・わが店に買物に来る人」と定義しているのだ。そして・・・、

▼商圏内の消費者が、わが店のカスタマーになるのは、買物自体が(当の本人は自覚などしていないが)楽しさを感じさせる感覚、満足感があるからであり、だから後で「思い出し」て再びその体験を重ねたくなるためで、決して便利だからなどではない。例えば、ランナーは走るたびに無意識に快楽を憶えるので「またランニングしたく」なるのに似ている。買物の快楽は、実店舗での買物体験に限られる。ネットでの買物は、便利には違いないが、キーボードで押す作業は「用事を済ませること」であって「休験」ではない。と解説している。

▼来店客を「お客さま」から「客」に蔑めと言うつもりは少しもない。むしろ、リアル店舗の顧客満足を追求していくには、店は客と同等の立ち位置で、客の本当に望むものを追及することが大事だと言いたい。回りくどい言い回しになったが、過去の売れ筋追求で作った売場では、日本の成熟した消費者にとっての「体験実感」は無いはずだ。常に新しい提案に溢れた品揃えの売場で、知らず知らずに時間を掛ける「買物の楽しみ」の体験がカスタマーを育てると思う。

2023/10/28