小売業の業態変遷だが、従来の理論で最も普及浸透しているのは小売の輪の理論仮説である。低価格を武器とした革新的小売業が出現すると価格競争力によって既存小売業の市場を奪うが、競争がさらに激しくなると革新的小売業は差別化を図るために価格を上げ付加価値を訴求するようになる。そうなると、低価格を訴求する新たな革新的小売業が出現する余地が生まれる。McNairによって提唱された小売業態の進展を説明する理論仮説だ。
▼このようにある小売業態の発生から成長・衰退へのライフサイクルを車輪にたとえ、これが回転するように革新的小売業態が次々と登場するという様相を捉えたものが小売の輪の理論である。ただし、小売の輪の理論は、低価格・低サービスでの市場参入を前提としているが、高価格帯での市場参入を十分説明できていない。小売業態革新は、業態が提供する価値の革新性や適合性という視点も必要であるといえる。
▼数日前に(株)JMR生活総合研究所のワークショップを拝聴する機会があった。この企業の代表取締役である松田 久一氏は、企業のマーケティング課題、戦略課題の解決に取り組んでいるコンサルタントで、コーネル大学RMPジャパンにも出講頂いている。哲学、歴史、経済学等の幅広い人文社会諸科学に基礎づけられ、日本の生活者に根ざし、グローバルに通用する新しい戦略経営やマーケティングを構築の力量は高く評価されている。
▼既に20年に渡り『消費社会白書』を発行しているが、今年の白書は特に興味深いものであった。まさに大転換期にあることを裏付けるトレンドと、フレーム解析を提示され、コロナ禍が落ち着き始めた頃からの業界を取り巻くもやもや感に光が射した気がする。詳細は講義を聴くことにして、業態転換の話が横道に行ってしまったが、ワークショップの中で、買物ニーズ(期待充足)を価格効率と創造売場での注目業態に大型総合スーパーがポジショニングされていた。若い年代、女性にとって最も好きな業態チャネルになっているのだ。ここでも業態としてのビジネス転換が効を奏し始めている。
2023/11/12