長期間におけるビールの業界シェアだが、1955年頃はキリン、サッポロ、アサヒの3社が市場をほぼ三等分していた。その後、キリンはシェアを伸ばし、70年前半から80年の前半にかけて、何と14年間もシェア60%を超えるという異常な状況が続いた。87年にアサヒが「スーパードライ」を投入し首位に踊り出たわけだが、キリンは48年ぶりに首位の座を明け渡した。絶対的なシェア差を逆転したということで衝撃的な話だった。
▼その後、シェア奪回を目指して次々と新商品を開発・投入し、宣伝、キャンペーンも打ったがシェア増には繋がらなかった。キリンの打ち出した戦略は、ライバル会社に対する対抗策に過ぎず、コンペティター・ドリブンに陥っていたようであった。アサヒとの戦いに負けたのは事実だが、それは商品対商品の争いだけではない。長い間の好環境に甘んじて本当の消費者の求めるものを追求する努力が疎かになっていたのかも知れない。
▼食品スーパーには直接関係ないが、「ワコール」が希望退職者150人程度を募集したところ、215人が応募したとのニュースが流れた。24年3月期も営業赤字計上の見通しで、2期連続となる営業赤字になる。衣料販売担当から小売業界での職歴を重ねた者として、知らない人はいない国民的企業だった「ワコール」が、10年代から陰りが見え始めてはいたが、このような状況に陥るとは想像すらできない事であった。
▼大きな理由は、「ユニクロ」の台頭によりシェアを奪われたことにある。08年に発売したブラカップを内蔵の商品で国内シェアを伸ばし、短期間で「ワコール」に迫り、21年には国内シェア首位になっている。その要因は、「低価格」と「快適で楽な着用感」にある。「ワコール」の強さはワイヤ入りの下着であった。そのため積極的にアピールしてこなかったノンワイヤのものは、あまり知られていない状態が長く続いてしまった。結果、価格の安さに加え、着用感は圧倒的に楽な「ユニクロ」が選ばれたのだ。今年の春物も「楽さ」を追求する姿勢が強調されている。
2024/04/22