(早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山 章栄氏が、一度完成したはずの「世界標準の経営理論」をDHBR誌25年4月号から改めての連載を始めた。この内容を土曜、日曜日にピックアップして紹介しているが、今回から「アイデンティティの理論」を取り上げ、組織や個人がどのようにアイデンティティを認識し、浸透・腹落ちさせ、変革へとつなげていくのかを示す。
▼「自分は何者か」を問うことが企業を変える
アイデンティティとは、「自分(あるいは組織)は何者か」という問いである。この問いは哲学的には非常に奥深いが、現代の経営においては“変化を起こすための基盤”として再注目されている。最近、日本でパーパス経営やビジョン再定義が盛んに語られているが、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューはすべて「アイデンティティの表出」にすぎない。本質的な問いは「我々は何者であり、何を目指す組織なのか」である。
変化の激しい現代では、企業は「知の探索(Exploration)」を進めなければ生き残れない。しかし探索はコストも時間もかかり、失敗も多い。そこで挫折しないためには、「自分たちは何者で、どこに向かうのか」の腹落ち(センスメイキング)が必要となる。
▼パーパスが“形骸化”する理由はアイデンティティにある
多くの日本企業でパーパス・バリューが浸透しない背景には、長年「アイデンティティを組織全体で共有する重要性」を軽視してきた歴史がある。
【背景】
・ 変化が少ない環境ではアイデンティティを問わなくても事業が回った
・ 終身雇用により社員は会社に「所属」し続けることが前提だった
・ 個人のキャリアアイデンティティを考える必要性が乏しかった
しかし今後はそうはいかない。
・ イノベーション必須のVUCA環境
・ 人材流動性の高まり
・ 会社の理念を共有できる人だけが残る組織へ
このような社会では、
「この会社は何のために存在し、どんな未来をつくるのか」を社員が理解し共鳴できるか が組織の命運を分ける。
▼アイデンティティとは何か(経営学の定義)
アリゾナ州立大学のアシュフォースらは、アイデンティティを次のように定義する。
“Identity is a self-referential description that provides contextually appropriate answers to the question ‘Who am I?’ or ‘Who are we?’”
つまり、「自分たちは何者か」という問いに対する“文脈に応じた答え”であり、固定ではなく変化しうる認知構造である。
(次週へつづく)
2025/12/14



