早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』、15万部を超えるベストセラーとなっているが、時代の変化の中で、新しい理論が生まれたり、必要な理論のウェートが変わったりしていることから、ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー誌に改めての連載を始めた。そこでの連載論文の概要を土、日曜日に紹介している。今回は「ネットワークサイエンスの理論(1)」になる。論文の中心は、① 世の中の多くの現象はネットワークとして見られること、② 複雑に見える巨大ネットワークも少数の法則でかなり説明できること、③ その鍵が次数分布やハブの理解にあること、④ 日本企業も自社や業界がどのネットワーク構造にあるかを見極めて戦略を選ぶべきだということだ。
▼企業を考える時、つい“自社”のことだけを見てしまうが、「ネットワークサイエンスの理論」が教えてくれるのは、そもそも企業は単体では存在していないということだ。企業は、顧客、取引先、物流、金融、情報、技術、人材など、無数のつながりの中に埋め込まれている。食品スーパーを考えても、店舗はネットワークの中の一つの結節点にすぎない。論文では、ネットワークサイエンスの理論は「この世界のさまざまな対象や事象がネットワーク構造から成り立っている」との前提に立つと説明されている。しかも「人と人の関係」だけでなく、脳の神経細胞、電力網、インターネット、サプライチェーンなど、あらゆるつながりを対象にするとある。現代社会は、言い換えれば巨大なネットワークの集合体なのだ。
▼この理論の重要な点は、「部分」よりも「全体構造」を見るという点だ。従来の経営論では、「あの取引先との関係を強める」「あのインフルエンサーに乗る」といった部分戦術が中心になりがちであった。ここで大事なのは、食品スーパーで言えば、自店の商圏や属する業界が、全体としてどんな繋がり方をしているか、その全体像にどんな法則があるのかを見ようとするものだ。例えば、少数の巨大プレーヤーが全部を握る世界なのか。地域ごとに密な小さな結びつきがいくつも並ぶ世界なのか。この視点を持てる事が、経営にとって非常に大切になり、勝ち方を変えることが出来る。
▼会社の戦略とは、自社の“強みを磨く”ことだけではない。自社が、どのようなネットワークの中にいるのかを見極め、その中でどの位置を取るかを選ぶことでもある。食品スーパーに必要なのは、店の中の改善力だけではなく、自社が、顧客ネットワーク、物流ネットワーク、地域ネットワーク、会員ネットワークのどこに立っているのかを見る力なのだ。どの繋がりの中で、売場は強くなるのかまで見えて、経営は初めて深くなる。ネットワークサイエンスは、食品スーパーを「店舗の集合」ではなく、「関係の構造」として見る視点を与えてくれる理論なのだ。(つづく)
2026/06/13



