(昨日のつづき)AIが進化するほど、「では人間の強みは何か」という問いが重くなる。論文は、この問いに対してかなり明確な答えを示している。これからの食品スーパー経営では、AIの活用が確実に進む。需要予測、発注業務、値引きのタイミング、シフト作成、在庫最適化、販促反応分析などの分野でAIはますます力を持つだろう。「ヒューリスティック」のような単純な認知ルールはAIでも模倣しやすい。すると、「では人間の店長や幹部は何をするのか」という問いが生まれる。論文は、この問いに対して、AIは人間の直感全体をそのまま代替することは難しいと論じている。
▼その理由をNDMの三要素に分けて説明している。第一のパターン認識については、AIはかなり得意。大量データからパターンを見つけ出すことは、現在のディープラーニング型AIのまさに得意分野である。したがって、人間の「見たことがある型だ」と気づく力の一部は、AIが近づいていく可能性がある。第二の世界モデルについては、まだ議論の途中だ。現在の多くの生成AIは、基本的にはパターン処理が中心で、人間のように暗黙の因果構造を持って世界を理解しているわけではない。ただし、AI研究の最前線では「世界モデル型AI」の開発が進んでいると論文は述べている。状況と行動と結果のつながりを自ら推論するAIが登場する可能性はある。
▼しかし、第三の情動による重みづけになると事情が変わる。ここで重要なのは、価値観、主観、身体性だ。人間は、心臓がざわつく、腹に落ちない、妙にしっくりくる、といった身体感覚を通じて選択肢に重みをつけている。論文では、ソマティック・マーカー仮説を通じて、身体由来の情動信号が意思決定を導くことが示されている。AIは、情報処理はできても、体を持たず、汗ばんだり、胸騒ぎがしたり、腹落ちしたりはしない。だから、人間の直感の核心部分をそのまま持つことは難しい、というのが本文の見立てだ。
▼組織運営に関して言えば、AIは分析の相棒にはなっても、最終的な「意味づけ」の主体にはなりにくいということだ。売上予測や需要予測、配置シミュレーションはAIが強い。しかし、「この人事は、数字上は正しくても、組織に残る後味が悪い」「この戦略は合理的だが、わが社らしさを壊す」といった判断は、人間の価値観と身体感覚を抜きにはできない。つまりAI時代に必要なのは、AIと競争することではない。AIに計算させ、人間が意味づけることだ。食品スーパーの幹部候補者は、データを読む力に加えて、「その判断は店と人に何を残すか」を感じ取る直感を持たなければならない。AIが強くなるほど、経営者と幹部の“人間らしい判断”の重みは、むしろ増していくのだ。
2026/05/16



