「米国小売業」:消費市場の変化とそれへの対応 ⑮

 Walmartが2020年に開始した興味深いプログラムは、サブスクリプション型配送サービスの「ウォルマート+(プラス)」です。会員は、98ドル/年(12.95ドル/月)で宅配費無料、最速で注文日中に商品が届くものです。音楽や映画といった特典が無いので単純比較はできませんが、「アマゾンプライム」との戦いを挑んだものなのでしょう。会員数は発表されていませんが、今年中には1000万人を超えるだろうとみられています。

▼Walmartは、核になるビジネスの成長を促進するため選択と集中が進んでいます。レストラン事業、スペシャルティ・アパレル事業、銀行事業などから撤退しました。顕著なのは国際部門で、ブラジル、アルゼンチン、英国、日本から事実上撤退、もしくはこれら企業の少数株主となったのです。Walmartも、最初は自社のビジネスモデルを海外に輸出することを主眼に置いての海外戦略でしたが、2018年にインドのEC大手Flipkartの株式を取得した頃から戦略転換したのです。この頃から「各国経済の成長性」と「デジタル」を主眼に置いた投資ポートフォリオのような戦略へと移りました。経済の成長性を重視したのでしょうか、中長期の経済の伸びが低い市場からは撤退し、その分を伸びる市場へとシフトし始めました。西友のような少数株主となった企業も含め20カ国以上に展開してはいるのですが、今後も投資リターンを見極めながらの選択と集中戦略が続くと思われます。

▼Walmartの企業の社会的責任面では、維持可能なビジネスとして、2040年までにゼロ・エミッションを、2035年までに100%再生可能エネルギーへの転換、2040年までにすべての車両を電気自動車にすることを、2030年までに5000万エーカーの土地と100万平方マイルの海洋の自然回復などを約束しています。人種問題にも積極的に取り組み、経営陣や仕入れ関連企業においても人種の多様性を推進しています。

▼60兆円近くの売上を誇る世界最大企業の中枢である執行役員の平均年齢が、ダグ・マクミロンCEOの54歳を含めた10人で、平均50.9歳という若さに驚かざるを得ません。

 (2021・11・15)