ネットスーパーの動向も、やはり都市部と地方では異なる。人口密度が高い都市圏では、自動化設備を導入した大型センターの開設が進んでいる。イオン同様に、イトーヨーカドーは23年春に神奈川県横浜市で、楽天グループと西友でも、今年大阪府茨木市、23年上期までに千葉県松戸市での専用センター稼働を予定している。一方、地方圏では、地場の有力SM(スーパーマーケット)が中心となって展開し、大手が商勢圏に入り込んでくる前に顧客を囲い込もうとしている。デジタル対応に不慣れな高齢者に向けて、電話やFaxでの注文受付から開始するなどの対応を図っている。いずれにしても、単に食品を配送するものではなく、デジタルを活用する事で顧客接点を新たに持ち、付加価値を提供するといった試みとなろうとしている。
▼ローカルSMの中で、注目するのは「スーパーサンシ(三重県鈴鹿市・田中勇社長)」だ。2020年度のグループ売上高437億円なのだが、13店舗中7店舗を拠点に「宅配サービス」を展開しており、全体売上高の2割近くの構成比をもっている。イオン発祥の地である三重県の企業であるスーパーサンシは、1980年頃から規模以外で対抗する差別化策として宅配サービスを始めている。インターネットもない時代で電話での受注から始め、自動応答システムを自社開発するなど独自の事業モデルをつくり上げていった。後にフランチャイズビジネスとして展開したのだが、宅配サービスは多くの負担がかかることから収益化が難しく、全国のフランチャイジーは全てこの事業から撤退した。ヤオコーも参加企業のひとつで、そこの社長として宅配事業に関わり苦労した経験がある。しかし、スーパーサンシはネットや携帯電話の普及を追い風に15年ほど前から黒字化を実現しているのだ。
▼なぜ、ネットスーパー事業を収益化できているのか。常務取締役Net Market事業本部長の高倉 照和氏は、「ひとつは、サービスを月額定額制としている点だ。月額会費をネット会員に負担してもらうことで、買い物に対するモチベーションが高まり、利用頻度や客単価増に繋がっている。二つ目が、収益性を高めるために物流はすべて自前化し、鍵付ロッカー『商品保管庫』を会員宅に設置、商品を置き配可能にして再配達が生じないようにしている。そして、注文アプリなど新しいテクノロジーを活用したシステム開発を続けていることになる」と成功のポイントを話されていた。
▼2019年、スーパーサンシは、この事業システムに関するフランチャイズ事業「JAPAN Net Market」を立ち上げている。ネットスーパー運営に必要なノウハウ全般を全国から募ったフランチャイジーに提供しており、すでに加盟企業は約20社に上るという。既にネットスーパー事業を展開している企業、または予定している企業は、一度、研究する価値があるのかも知れない。
(2022・02・10)