昨日は、日本生協連(日本生活協同組合連合会)が進めているDX(Digital Transformation)推進と組織改革が、更に強い存在感を発揮するかも知れないと書いた。各社が本格的にDX戦略に取組み始めたが、先週月曜日発売の『週刊ダイヤモンド』(2月22日号)に「セブン DX敗戦」のタイトルで特集が組まれていた。「イトーヨーカドーに失敗は無い。成功するまで継続するのだから」との言葉を聞き続けて来たので、「敗戦」の言葉が気になる。それにしてもマスコミは「敗戦」とか「戦犯」とかの言葉をよく使う。
▼特集記事には、「第3のデジタル敗戦:1200億円もの巨費を投じて進めてきたDX戦略の崩壊は、セブン&アイ•ホールディングスの歴史にそう刻まれることになるだろう。」とある。第3とあるが、2015年にスタ—卜したECサイト「オムニ7」は23年にもサ—ビスを終えるとの情報だ。リアルとネットの融合を目指したが、EC市場で完全に埋没してしまった。これが第1の敗戦になる。第2の敗戦は、スマートフォン決済サービス「セブンペイ」の頓挫だ。19年7月に鳴り物入りでスタ—卜した「セブンペイ」は直後に不正利用が発覚し、わずか3カ月で終了した。TVニュースで観た会社幹部の記者会見時の様子は記憶に新しい。そして、今回の「出来事」が第3の敗戦になる。「出来事」とは、セブン&アイが推進してきたDX戦略の鍵を握る執行役員だった米谷修氏が、2021年秋に退任したことだ。米谷氏は、リクルート出身でITやシステムのエキスパートとして19年2月に迎え入れられ、20年4月からDX戦略本部のトップに任じられ企業全体のDX戦略を進めてきた。この退任は、ただの幹部人事ではなく、事実上の失脚でありDX責任者の更迭によって体制崩壊したものだ。よほど事業会社との間でトラブルがあったものと推察できる。
▼日本のコンビニビジネスを生み出し、小売業界に革命を起こしたセブン&アイ・ホールディングスが、なぜデジタル戦略では迷走を続けるのか。創業家である「伊藤家」と、コンビニを発展させ君臨した鈴木敏文前会長による二族経営を思わせる構造に起因しており、激しい路線対立や創業家による介入などが戦略に影響を与えた結果、負の連鎖を生んでいると推測している。流通系では初の電子マネー「ナナコ」も、グループの店やサービスでしか使えなかった。自社インフラを外部に広げていく発想に乏しく、しかもデータ活用の側面で致命的な欠陥を抱えていた。「ナナコ」のデータの多くは“人”と結び付いていないのだ。当時の鈴木氏にITやデータ活用という未来の視点がなかったと思えるほどだ。鈴木氏の退任後、これを否定するように、スマホを通じて顧客・購買情報などのビッグデータを幅広く集める狙いで「セブンペイ」を展開したが、拙速に打った手が命取りになった。
▼日本の小売業を代表する企業の話だが、規模の違いこそあれSM業界でもよく耳にするケースに違いない。創業家や組織間の序列、ITベンダーやコンサルティング会社など利害関係絡み合って革新のブレーキを踏んでしまうことがよくある。「DX推進は単なるITツールの導入ではなく、経営の抜本的な改革が併せて必要だ」とよく語られる言葉だが、ダイヤモンド誌の記事内容を他山の石として、自社の戦略を間違える事の無いようにしたい。
(2022・02・14)