米ウォルマートの脱チェーンストア戦略

米国小売業全体の動きを見るのに、Walmartの動きの中から推測しておきたい。Walmart(ウォルマート)のCEOダグ・マクミランが21年11月に発表した第3四半期(8月〜10月期)の決算発表で、「われわれは『Walmart GoLocal』『Walmart Connect』『Walmart Luminate』『Walmart +』『Spark Delivery』『Marketplace』『Walmart Fulfilment Services』などの事業を立ち上げている」と語っている。

▼急拡大したネットスーパー事業がWalmartのDX(Digital Transformation)を加速させ、新たなビジネス機会を次々に創出している。ライバル企業のAmazonに似た、BtoBビジネスを幅広く手掛けるビジネスモデルへの転換が進んでいるのである。新事業の「Marketplace」は、Amazonのマーケットプレイスと同様にWalmartのサイトでサードパーティが新商品もしくは中古品を出品して売り手と買い手を結びつける事業である。そして、そこに出品する販売業者を対象に、注文を処理して返品を管理し、マーケットプレイスまで手掛けるのが「Walmart Fulfilment Services」になる。

「Spark Delivery」は、クラウドソーシングをベースにギグワーカーを募り、ネットスーパーの宅配を委託するプラットフォ—ムサービス。「GoLocal」は、Spark Deliveryを利用してWalmartが他の小売業のラストマイルを代行するサービス。Home Depotが最初の大口顧客となり、BODFS (Buy Online Deliver From Store)を実施している。

▼「Luminate」は、特定のカテゴリー、商品に関するデータ分析サービスだ。Walmartのネットとリアルの客数は1週間に1.5億人にも達する。そのデータを解析してメーカーやサプライヤーに提供するものになる。そして特に注目されているのが「Walmart+」と「Walmart Connect」になる。「Walmart+」は「アマゾンプライム」に対抗する有料のメンバーシッププログラムで20年9月に開始している。年間98ドル(月額12.95ドル)の会費で、WalmartのSuper Centerで販売されている食品や日用品、玩具、家電などを無制限かつ無料で配達する。買物時に利用者が商品バーコードを専用アプリでスキャンして決済を終える「Scan & GO」などの特典も受けられる。21年6月には処方薬の割引特典も付加した。

▼「Walmart Connect」は広告ビジネス。米国人の9割がWalmartで買い物をしている。そして買物客との情報接点は無数だ。店内に設置されたテレビモニターやデジタルサイネージ、セルフチェックアウトレジだけでも17万台に上るという。ネットスーパーでのレコメンド機能などを広告媒体として最大限利用する。今後5年で広告事業の売上高を10倍以上に拡大し、国内の広告代理店上位10社以内に位置付ける目標を立てているのだ。21年上半期のメディア売上高は前年同期95%増とのことだ。

世界最大のチェーンストアは、従来型のチェーンストア展開とは決別したように見える。店舗数の拡大による成長戦略から一転し、小売業とは別事業を次々に立ち上げ、Eコマースとテクノロジー、そしてサプライチェーンに集中投資している。

(2022・02・17)