確定申告時の地震保険料控除を受けるにあたり、支払証明(書)入手のため損保ジャパンの担当者と話す機会があった。その時、社員一人ひとりの行動指針となる冊子「Spirit -未来への指針-」についての話を聞いた。企業として目指す姿の実現に向けて、各職場で定期的なミーティングを実施しており、その時にこの冊子を使うらしい。
▼この企業は、安田火災、日本火災、日産火災、興亜火災、大成火災の5社との合併を繰り返し、現在の「損害保険ジャパン株式会社」となった経緯がある。合併を繰り返した銀行がシステムトラブルを解消できずに社会的な問題になっているケースもあるが、損保ジャパンでは、各企業の持っていた企業文化をどの様に融合し、新しい企業文化を構築して来たのか気になっていた。そしたら、日本経済新聞(2月26日朝刊)の“Deep Insight”欄で「社風改革、覚悟の“踊り場”」と題して上杉素直氏(日経新聞コメンテーター)が記事にしていた。社員一人ひとりが自主的に考えて行動できる社風を如何に作るかとの問題提起だ。これまでの各社の企業文化をひとつにし、新しい企業文化を構築する損保ジャパンの取り組みを紹介していたのだ。
▼この企業、もともと上意下達のノルマ主義で、市場シェア日本一が社員の誇りだった。ただ、人口減や自然災害の増加で厳しい環境になってきている。危機感を抱いた西沢敬二社長は、従来の流儀をひっくり返して、未来に向けて目指すカルチャーを追い求め、実現させる活動を開始した。従来のトップダウン型からお客さまを起点としたボトムアップ型への転換を図ったのだ。この内容を、32ページの冊子「Spirit-未来への指針」(2019年発行)にまとめて社員に配布。「企業文化を変える」を謳い、「創造性・独創性」「スピード」という目指すカルチャーを明文化した。エピソードとしてあるのは、「これから2年間は市場シェアを考慮しなくていい」として取り組んだということ。この西沢社長の社風改革に対する執念、覚悟を社員たちが感じたのであろう、とまどいながらも、社員が支店をリードする形は、人材育成や品質に関するプロジェクトチームを作る中で徐々に見えてきたとある。新しい企業文化でシェアも回復しつつあるそうだ。
▼社員が意欲をもって働ける環境つくり、優秀な人材が集められる環境つくりのための社風改革に挑戦する企業が増えていくであろう。上杉氏は、トヨタ自動車も、「意志ある踊り場」というフレーズで、将来の成長への足固めの期間を敢えて作ったそうだ。「踊り場」は猶予であり、覚悟を伝える象徴になったと述べている。環境が激変する中にあって、既存の価値観を見直す必要もあるのかも知れない。
(2022・03・07)