福岡県を中心に64店舗を展開するホームセンターのグッデイ(福岡市)は、DX(Digital Transformation)先進企業として注目を集めている。DX効果で、売上高はここ5年で25%ほど向上したとある。書籍『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社)を読んだ。SM業界に転職した当時の体験と重ねて楽しみながら読んだ。
▼グッデイ社長の柳瀬隆志氏、ノンフィクションライターの酒井真弓氏による共著になる。柳瀬社長は、東京大学経済学部卒業後に三井物産に入社、食品本部で冷凍食品などの輸入業務に取組んだ後、2008年に父親の経営する株式会社 グッデイの親会社である嘉穂無線ホールディングス株式会社に入社。16年に嘉穂無線ホールディングス、及びグッデイ社長に就任したオーナー経営者だ。グッデイは、福岡を中心に大分、佐賀、熊本、山口に64店舗(21年4月現在)を展開、売上高、約335億円(2020年3月)の企業である。『DIAMOND Chain Store』誌による業界売上高順位は23位であった。
▼グッデイが変貌したのは7年前になるのだが、本のタイトルにあるように、DX企業への取組が開始され、その効果に注目が集まっているのだ。柳瀬社長が入社した2008年当時は、社員は誰もメールアドレスを持たず、企業の公式ウェブサイトすらなかった。それが、2015年にまずグループウエアの「Google Workspace」、続いてデータ分析ツールの「Tableau」を導入したことが転機になったとある。
▼小売業の基幹システムである発注や在庫管理などからデジタル化を推進すると膨大な時間と資金が掛かってしまう。そこで、社内通達を紙からメールにするなどの成果の出やすいところから着手したという。既製のITサービスを利用しただけだが、コストも掛からず社員は便利さを実感したのだ。従来のシステムより動きが速くなり、それまで大量データを簡単に集計・分析できる仕組みがなく、資料作成に忙殺されていた社員に大歓迎されたとある。その後、若手社員10人ほどで勉強会を開始し、各部署にデータ分析に詳しいメンバーがいる状況をつくった。こうした努力の結果、情報共有やデータ活用が急速に進み、精度の高い施策が打てるようになったという。
DXを成功させるには、現場任せにせず、経営者自身がDX推進の主導権を握る必要があるとよく言われる。「データ分析なんてうちには無理」「何から始めたらいいか分からない」という経営陣にいる修了生にもお勧めしたい1冊になる。
(2022・04・17)
