ロシアのウクライナへの侵攻は2か月以上に及び、無差別攻撃による深刻な被害が続いている。小麦などの先物取引価格は跳ね上がっている。現在の食料品価格の上昇は「アグリ・インフレーション」=農産物のインフレ)と言ってよい状況だ。略して「アグフレーション」と言っている専門家もいる。もしいつの日か収まるとしても、元の相場まで戻ることは難しくなると思える。
▼日本では、「戦後3回目の価格高騰局面に入った」と北海道大学農学部 東山 寛教授が話されていた。説明によると、1回目は1970年代、2回目は2006年末から2010年代初めにかけての時期で、それが収まったのは10年前になるという。ただ、相場が戻ったかというと、前よりも高いポジションを維持しながら推移してきている。3回目の今回、特に深刻なのは、これまでの「新興国の成長」、「バイオ燃料」、「投機マネー」という相場を押し上げる基礎的な要因(ファンダメンタルズ)に変化がないうえに、「地球温暖化」と「ウクライナ問題」が加わってしまったことによるとのこと。1月に発生したトンガ大噴火の影響も心配しておられた。
▼2021年版『食料・農業・農村白書』は、農業資材のトピックで「肥料原料は大半を輸入に依存」という興味深いコラムを掲げていた。肥料原料の確保が難しくなっているという現実問題が大きいという背景があるのだろう。白書では、肥料原料の代表的な「リン鉱石」「塩化カリ」「リン酸アンモニウム」について記載されているが、このうち塩化カリの2020年の輸入量43万7000トンのうち、13.3%をベラルーシ、12.2%をロシアから輸入している。リン酸アンモニウムは、90%を中国に依存しているが、中国の国内優先政策により昨年10月から輸入停止状態になっている。日本では、農業分野で自給できる埋蔵資源は「石灰」だけなのだ。
▼アグフレーションに対応した農政の再構築が必要になるだろう。当面は生産者サイドの問題ではあるが、やがてわれわれの店頭への影響が出てくるはずだ。コストアップを吸収する当面の対策が必要だが、抜本的な方針転換が必要になる。輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料への依存を減らすために有機農業へシフトする必要もあるだろう。食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」(みどり戦略)を農林水産省が策定、「有機農業100万ヘクタール」を2050年目標に掲げているのも意味のあることだ。有機農業までいかないにしても減肥農法に舵を切る必要を改めて感じる。自給飼料の増産などを含め、農政も大きく変わるときを迎えているように思える。
(2022・04・27)