『ひとはなぜ戦争をするのか』講談社学術文庫・・

今日、5月9日は旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」であり、ロシアでは最も重要な祝日となっている。この日は、ロシアの人たちがソビエト軍の功績や戦争に加わったそれぞれの祖先に思いをはせ、愛国心が最も高まる日とされている。「追悼と和解」の象徴という側面があったが、近年は、国威発揚の場として利用する傾向が強まっている。これまでも、プーチン大統領は、最新の兵器を披露し、欧米との対決姿勢を鮮明にする演説を行ってきている。ウクライナへの軍事侵攻が続く中で迎える今年、世界中から大統領による演説に注目が集まっている。

▼連休の最後の日、『ひとはなぜ戦争をするのか』(講談社学術文庫)アルバート・アインシュタイン、ジグムント・フロイト(著)を読んだ。本書はアインシュタインとフロイトの間の書簡である。1932年、当時の国際連盟がアインシュタインに持ち掛けたプロジェクトから始まったもので、公開されることを前提とした書簡である。解説も含めて111ページの本で、休日ならば1日あれば読める。アインシュタインの「人はなぜ戦争をするのか」という問いに対してフロイトの返事は専門の研究分野に関わるテーマなので関心の高さがうかがえる。

▼「この破壊欲動に理想への欲動やエロス的なものへの欲動が結びつけば、当然、破壊欲動を満たしやすくなります。過去の残酷な行為を見ると、理想を求めるという動機は、残酷な欲望を満たすための口実にすぎないのではないかという印象を拭い切れません。(中略)当面のテーマとの関連で言えば、こういう結論です。『人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない!』(中略)ともあれ、あなたもご指摘の通り、人間の攻撃性を完全に取り除くことが問題なのではありません。人間の攻撃性を戦争という形で発揮させなければよいのです」とある。つまり、人間には本能的に破壊欲動が備わっていて、それを取り除くことはできないが、それが発動しないように制御することは可能だという。「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩みだすことができる」というのが、フロイトの回答であった。

▼アインシュタインが書簡の中で期待したある種の世界政府だが、存在させることは出来なかった。第二次世界大戦は防げなかったし、今の国連の安保理も正常に機能しているとは言い難い。今後も継続するに違いないウクライナへの侵略。「戦争は無くならない」という地点から人類の知恵を再構築する作業は喫緊かつ死活的な課題である。

養老孟司さんと斎藤環さんの解説は秀逸だ。

(2022・05・09)