6月1日から新型コロナウイルスの水際対策が緩和され、1日あたりの入国者数の上限を2万人になった。入国者数に上限を設けているのは主要7カ国(G7)で日本だけなので、さらなる緩和も実現しそうだ。10日からは観光目的の入国も認める。ただ、添乗員付きの団体ツアーが条件で、新型コロナの流入リスクの度合いに分けて検査や自宅などでの待機の程度を分ける。これまで日本は全員に滞在国を出国する前の72時間以内の検査に加え、入国時も検査を義務付けていた。
▼新千歳空港と那覇空港での国際線の運航再開に加え、仙台空港など他の地方空港でも国際線受け入れを再開する方針だ。円安のメリットを受けられるのでインバウンド再開は大きな意味があると思われる。年間3000万人に達していたインバウンド需要が一瞬にして消滅したことは、さまざま分野で大きな影響を与えている。国境を越えた人の流れの正常化が待たれるところである。
▼日本を訪れる外国人旅行者にとって、主な目的の一つに「日本の食」を楽しむことにある。TVのバラエティ番組で話されていたが、“次に海外旅行したい国”として日本の人気は依然として高かった。内訳はアジア居住者67%、欧米豪居住者36%であるが、旅行の目的として、桜の鑑賞、自然や風景の見物、伝統的日本料理を味わうことが上位に回答されていた(日本政策投資銀行・ 日本交通公社による外国人旅行者の意向調査)。
日本の外食産業は多様性が際立っている。世界的ガイドブック・ミシュランの東京版 (2021年)に掲載された星付きレストランの数は203軒(星はないが値段以上に満足できるおすすめ店を意味するビグルマン229軒)となっている。世界的に活躍する料理人も多い。
▼「日本の食(和食)」の価値が世界的に注目され、13年12月にはユネスコの世界文化遺産に登録されたことがある。ここで強調されたのは、和食の持つ4つの要素であった。第1に、多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重である。第2に、栄養バランスに優れた健康的な食生活である。第3に、自然の美しさや季節の移ろいの表現である。第4に、正月や祭りなどの年中行事との密接な関わりである。これらの要素が複合され、日本人の伝統的な食文化としての和食の価値があるとされたのである。
ただ、外国人旅行者のみならず、「日本の食(和食)」は高級な食としてのイメージが強調され、日常生活とかけ離れたものになっているようにも思える。そして、日常的な食の場は、価格志向や節約・簡便志向の高まりで、本来の楽しさや美味しさを感じさせなくなっているのではないかとの懸念もある。日常的な食の場から切り離された食文化は存続しない。食文化を(もっともっと)豊かにすることを自社のポジショニングを考えるときの基準にするよう意識したいものだ。
(2022・06・03)