「免疫機能力」を向上させる日本の食・・・

生活スタイルの変化による簡便化や合理的な食事に変化し続けている。残念なことに、日常的な食の場に世代を越えて受け継がれてきた伝統的な知恵や技が見えにくくなってしまった。団塊の世代といわれるわれわれにも、祖母や母の時代には当たり前であった手作りの漬物やその土地々にあった郷土の食を作り伝えるカはない。知恵の塊である「日本の食」は足元から揺らいでいる。「日本の食」が抱える最大の問題であると思うのだが、ビジネスの現場で理解されることは少ない。

▼学生時代の専攻は、文化人類学でありその中の形質人類学を学んでいた。その内容は、興味深く研究を続けたかったが、学園紛争で日本中のキャンパスが荒れていた時代であり叶わなかった。その時の担当教授から、「日本の食」はさまざまな分野にわたる奥行の深い知の世界という話をよく聞いた。文化人類学だけでなく日本文化論、農業、生命科学、医学、化学、経済学、流通・マーケティングなどの総合的な分野の知になるということであった。発酵学の権威である小泉武夫(東京農業大学名誉教授、農学博士)先生は、微生物の巧みな応用力に「日本の食」の価値を見出している。

▼コロナ渦で日本の負の部分が炙り出され、低成長、低金利、低所得、低物価と連日のように伝えられた。バブル崩壊以降の30年間は、高齢化が進み経済成長の鈍化や社会保障費負担の増加などネガティブな側面ばかりが強調され伝えられることが多い。しかし、コロナ渦の中で何度となく議論された「免疫カ」について、「発酵食品」の切り口から捉え直してみると「日本の食」の大きな可能性が見えて来そうだ。免疫機能を担う免疫細胞と強い関係にあるのが腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)である。腸内フローラの呼び名でも広く知られているが、免疫機能の維持・調整に加えて、エネルギー代謝の維持、薬物の活性化・不活性化、消化器機能の維持、内分泌系の調整、自律神経系の調整、メンタル面の維持•調整など多様な役割を果たすものだ。この腸内細菌叢のバランスを維持することが人々の健康のために不可欠であり、そのための食の在り方が決め手となるという。

▼コロナ禍は日本の消費社会にある変化をもたらすのだろうか。外出自粛やリモートワークが要請されるなかで、日常の生活空間の質に関心を持つようになったと聞く。自宅周辺の散策、家庭菜園など、少しでも自然に触れたいとの意識が強まり、手作りの料理を楽しむ人もいる。

日本の風土と伝統の中で人々が紡いできた食の生活の知恵と技を再発見し、科学的知見と技術を駆使して新しい食の未来を切り開くお手伝いをスーパーマーケットができるならと願う。

(2022・06・05)