日銀が発表した5月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は112.8と、前年同月比で9.1%上昇した。前年を上回るのは15カ月連続。様々なコストの上昇が加速しているのだ。1970年代の地価急騰や石油ショック時の時に似ている感じだ。このコスト上昇は一過的なものではなく、長期に続くとみる必要がありそうだ。コロナ禍のような消費減退、売上不振の場合は、「固定費を中心にコストを下げて、会社の存続を図る」ことが必要だったが、すべてのコストが上がっている現状は打つべき手を変える必要がある。答えは、シンプルに「値上げ」なのだが、われわれSMの立場では難しいのに決まっている。
▼日銀の黒田総裁発言に対して、SNSを中心に批判を集め、「世間知らず」「仕方なく我慢している」といった声が上がっていた。東大教授が実施したアンケートで「なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったときにどうするか」との問いに対し「値上げを受け入れ、その店でそのまま買う」との回答が増えた内容に基づくものだが、「値上げ許容度も高まってきている」との言葉を使ってしまった。金融業界や経済学者相手であるなら、「許容度」という意味を理解したのだろうが、生活者は「許容しているわけではない」という反応が吹き出してしまった。専門家の言葉遣いがコミュニケーション不全を引き起こすことがあるが、それほど価格に対する反応は敏感なのである。
▼われわれの業界では、価格政策の話になると、コンサルタントの先生方は必ず「EDLP」戦略を提案してくる。売上予測や計画が立てやすく、広告費が削減でき、固定客増など期待できる戦略という。しかし、その実現には重要なポイントがある。まず、PB商品を活用することだ。EDLPの顧客層は対コストを重視する傾向が強い、値段に対しての品質を提供すれば顧客満足度と荒利額を獲得しやすくなる。次には、オペレーションコストの削減を徹底することになる。効率化できる業務は徹底的に見直す必要があるのだ。そして、商品構成をシンプルにする必要がある。定番商品を低価格で購入して頂くには、売れる商品に絞って商品を構成していく方が適している。限定した商品を大量に、長期間に渡って仕入れる交渉をするべきだ。
▼EDLPは理想的な戦略に見えるが、徹底したローコスト経営が前提になる。それが出来ないと、単に売上と荒利を下げるだけで終わる可能性が高い。コストカットや仕入れの交渉力など経営として求められるものが多いモデルがEDLPになる。一方、ハイ&ロー戦略には、セールによる多くの顧客を誘導できるというメリットもある。顧客を引き込む力のある目玉商品を効果的に作ることで大きな成果を出すこともできる。一定期間内で売上を伸ばす効果も高いのだ。商品によって適不適もあるだろうから、戦略としての位置づけを明確にしてからでないとEDLPも難しいと思う。
(2022・06・11)